第104話 戦うよりも疲れること
ホープイエローとの協力体制が築かれてから、二週間が経った。その間にホープイエローからあった協力の要請は五回。
そしてたった今、六回目となる協力要請によって作戦行動中だった。
今回の依頼は集団で強盗行為を繰り返す怪人集団の捕縛だった。狙いをつけていたであろう宝石店の前で罠を張り、一気に仕留めにかかっている所だった。
「今よレッド!」
「うん、任せて——『
イエローの矢が怪人の肩に命中し、飛んで逃げていた怪人がふらつく。そこに向かってオレの鎖が伸びてその足に絡みついた。
「ぐっ、生意気な。こんな鎖引きちぎってやる!」
「私の鎖舐めないでよね! 炎よ」
「ぎゃあああっ!!」
鎖を伝って炎が怪人の体を燃やす。もちろん殺すほどの威力はない。火力はちゃんと抑えてある。じゃないと焼き鳥になっちまうからな。
「これで四人目、あと一人!」
「くそ、あいつまで捕まったのか。せめて俺だけでも逃げ延びて——」
「大丈夫よ。あなたも彼らと同じ場所に送ってあげるから」
「はっ!?」
「『水閃』」
「う、うわぁああああああっっ!!」
ブルーの剣が怪人の翼だけを器用に切り裂く。
翼を失った怪人はそのまま地面へと落下し、叩きつけられる。普通なら死んでる高さなんだろうが、そこは腐っても怪人だ。あのくらいの高さじゃ死にはしないだろう。
まぁそれでも結構なダメージはありそうだが。
「っぅ、つ、翼が……だが、それなら走って逃げるだけだ」
「その執念は流石だと思うけど。この状況じゃちょっと無理じゃない?」
「っ!!」
思ったより早く起き上がったが、まぁオレ達の方が早かったな。
オレと、ブルーとイエローで包囲済み。逃げ場はどこにもない。
「大人しく投降しなさい。そうすればこれ以上痛い目を見なくてすむから」
「ここまでか……」
イエローの言葉にぐったりと項垂れる怪人。これで五人目。全員とっ捕まえたってわけだ。
作戦が思った以上にうまくハマったな。まぁそういう風にこいつが組み立てたんだろうが。
その後、捕まえた怪人達を協会の方に引き渡したり、どこから聞きつけたのかやってきた記者の取材なんかを受けてるうちにあっという間に時間は過ぎていった。
記者からの怒涛の質問攻めに疲れ切ったオレは、ようやく解放された後に壁にもたれ掛かっていた。
「はぁああああ、疲れたー……」
「あはは、お疲れ様レッドさん、ブルーさんも」
「お疲れ様。イエローはともかく、情けないわよレッド。あの程度で疲れるなんて」
「ブルーが質問全部こっちに丸投げしてくるからでしょ!!」
こいつマジでふざけんなって話なんだが。記者が何聞いても知らぬ存ぜぬ興味ないで貫きやがって。あげくにこっちに質問丸投げ。ふざけんなって話だ。
「記者の人滅茶苦茶困ってたじゃねぇか!」
「答える義理もないでしょ。むしろあなた達が律儀すぎるのよ」
オレだって答えずに済むならそうしてぇよ。でもできないんだからしょうがねぇだろ。
最近になるまで気付いてなかったことだが、魔法少女に変身してる間はフュンフに課せられた呪いがより顕著に働くらしい。つまりあいつの理想とする魔法少女らしい行動ってのを半ば強制されるわけだ。
絶対ってわけじゃなさそうだが、少なくとも記者の質問に答えないってのは無しらしい。オレに答える気がなくても口が勝手に動きやがる。
「別にそこまで嫌なこと聞かれたわけでもないですし。まぁいいかなって」
「……それにしても、表に出てる時と今でギャップあり過ぎない?」
「え、そうですか?」
「まぁそうね。それは私も思ってたわ」
イエローの奴、戦ってる間とかさっきみたいに記者の質問に答えてる間は凛とした感じなのに、今はそんな感じ一切ねぇからな。見た目的には凛とした感じの方が合ってるっちゃ合ってるんだな。
こいつもフュンフになんか呪いかけられてんのか?
「あれは……理想の私です。強くて、まっすぐな、弱くない私」
「理想の?」
「あ、ごめんなさい。気にしないでください。キャラ付けっていうと変ですけど、そんな感じです。あぁしてるとスイッチが入るっていうか」
「なるほどね。マインドセットみたいなものかしら」
なんていうか、これ以上は踏み込まれたくないって感じだな。
まぁ別に気にするようなことでもねぇしどうでもいいか。
「そ、それよりも! 今回も上手くいきましたね。お二人のおかげです。ありがとうございました」
「私は別にそんなって感じだけど。普通に捕まえただけだし」
「作戦の立案をしたのはあなたなのだから、一番の功労者はあなたでしょう」
「そーそー、踏み込むタイミングとか全部考えてたもんね。その後の怪人達の行動も読み通りだったし。すごいね、なんでわかるの?」
「そんな大したことじゃないですよ。ただあらゆる可能性を考えて、一番高い可能性を選んだだけです」
今回の怪人達は光物ばかり盗んでた。烏の怪人共だったからそれもなんとなく納得できるんだが、その情報を元に色々調べてたみたいだな。
その結果今回の宝石店を張りこむことに決めたわけだからな。そのあたりの読みは流石って感じだ。
「でも、あの人数は一人じゃ無理でしたから。やっぱりのお二人の力添えがあったからです。お礼を言わせてください」
「そこまで言われて悪い気はしないけど」
「そうね。それじゃあ私は先に失礼するわね」
「あ……」
「行っちゃった。ホントまぁ愛想無いっていうか」
「やっぱり……チームは組んでくれないんですよね」
「そこはね。悪いけど」
「いえ、すみません。気にしないでください。もっとお役にたって、認めてもらいますから。それではまたお願いします」
「はーい。またね」
そう言ってイエローも去っていく。
認めてもらう、ねぇ。無理だと思うがな。少なくともオレもあいつも、チームを組む気はねぇわけだからな。
「チーム……か」
ま、そのうちあいつも諦めるだろ。
それよりも明日はドワーフメイスに魔道具のメンテナンスしてもらう予定だからな。
さっさと帰って明日の準備だけしとくか。
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