第105話 情けない兄貴
翌日、いつものようにテレビを見ながら朝食を食べてると突然魔法少女特集が流れ出した。
『今回特集するのは最近話題のラブリィレッド、ブレイブブルー、ホープイエローの三人組です!』
「ぶっ!?」
思わず口に含んでいた味噌汁を吹き出す。
「にーたん、ばっちー!」
「ばっちー!」
「お、お兄ちゃんどうしたの!?」
「わ、悪い」
秋穂が慌てて机の上を拭く。
ってか、なんなんだよこの特集は。こんなのがあるなんて全く聞いてねぇぞ!
番組ではオレ達一人一人の紹介と、どんな活躍をしてるのかが紹介されてる。よくもまぁこれだけ細かく調べたもんだ。
オレやブルーなんかはほとんどメディアへの露出は無かったし、ホープイエローも最近新しく魔法少女になった新人だ。そんなワンコーナー作るほどの情報量はねぇと思ったんだが。
いや、でも待てよ。そういや最近あいつらと依頼解決するたびに記者みたいなやつがいたな。昨日もそうだ。この内容……もしかしてそっからも引っ張って来てんのか?
こういうのって普通事前に一言くらいあるもんじゃねぇのかよ。
「これ見てビックリしてたみたいだけど、この人たちがどうかしたの?」
「ん、あぁいや。ちょっとな」
「らぶりーれっどー!」
「ぶれいぶぶるー!」
「お前らこの魔法少女のこと知ってるのか?」
「しってるよ! よくマネしてあそぶの! ちーはれっどなの!」
「ボクはね、ボクはね、ぶるーなんだよ」
「いえろーはちーのおともだちがやってるよ」
「こら二人とも、ご飯中に暴れないの」
「「はーい……」」
秋穂に怒られて千夏と冬也がシュンとする。
でもそうか、こいつらでも知ってるのか。なんかそう考えるとむず痒いっつーかなんつーか。
「そんなに有名なのかこの三人」
「うーん、有名なんじゃないかな? 最近よく活躍してるってネットニュースで記事見るし。私の友達とか、クラスの人も話題にしてること多いよ。期待の新人魔法少女だーなんて言ってる人もいるくらいだし」
「そこまでか……」
「色んな魔法少女がいるけど、この三人は結構期待されてるんじゃないかな」
「……お前もそう思うか?」
「私? 私は……」
ちょっと迷うように言葉を濁す秋穂。
「……なぁ秋穂。別にいいんだぞ。オレのことは気にしなくても」
「え?」
「お前がオレのこと気遣ってくれてるのはわかるけどな。オレだっていつまでもガキじゃねぇんだ。お前が魔法少女に興味持ったからって怒るわけねぇだろ」
「あ……」
はぁ、情けねぇなオレは。ホントはもっと前に言っとくべきことだったんだろうな。
秋穂がオレのこと気遣ってるのなんて前からわかってたことなのにな。
千夏や冬也はともかく、秋穂はオレの魔法少女嫌いのことを知ってる。そしてそうなった理由も。だからこそ秋穂にとってオレの前で魔法少女の話をするのはタブーになってたんだろう。
テレビとかでも露骨に魔法少女は避けてたみたいだからな。でも本当ならもっと早く言うべきだったんだ。
妹にここまで気を使わせてたのに、今まで何も言わなかったのは兄貴失格過ぎる。
「オレも昔ほど魔法少女のことを毛嫌いしてるわけじゃねぇし。最近はちょっと認識も変わったからな。もうあんま気にすんな。今まで悪かった秋穂」
「お兄ちゃん……うん、わかった。こっちこそごめんね」
「なんでお前が謝んだよ」
「えへへ」
なんとなく照れくさくなって顔を逸らす。
「で、どうなんだよ。この三人についてお前はどう思ってんだ?」
「私もそこまで魔法少女に詳しいわけじゃないからなんとも言えないんだけど……」
「けど?」
「この赤い髪の……ラブリィレッドって魔法少女はちょっと気になるかも」
「えっ」
「なんでかはわからないんだけど、妙に気になるっていうか。応援したくなるっていうか……」
「そ、そうか……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ」
今のは墓穴だったか。ってか何聞いてんだオレは。
それもこれも全部このテレビのせいだ。ったく誰だこんな特集組みやがったのは。今からでも変身して乗りこんでやろうか。
「って、それはさすがにやり過ぎか。それにしても……」
上手く編集されてるというか、テレビの中のオレ達は魔法少女らしかった。いや、魔法少女なんだがな。
世間の人間からはオレ達はこう見えてるってわけか。正義の味方としての魔法少女。
悪に屈することなく、人々を救う正義の象徴。
はっ、らしくねぇよな。そんなのオレには似合わねぇ。
あそこに映るオレと、本当のオレ。『ラブリィレッド』と『紅咲晴輝』。全くの別もんだ。
「オレに正義なんて言葉は似合わねぇよ」
って、阿保くさ。なに朝からしんみりしてんだオレは。
「ごちそうさま」
「もういいの?」
「あぁ。今日も用事があるから先に行く。それと、もしかしたら帰りも遅くなるかもしれねぇから、先に晩飯食べててくれ」
「え、今日もなの? 最近朝も早いし、そういうこと多いけど……」
「まぁ、ちょっとな。そんな大したことじゃないから気にすんな。ほら千夏、冬也。いつまでもテレビ見てねぇでさっさと飯食え。保育園遅れるぞ」
「「はぁい」」
「そんじゃ行って来る」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
「いってらっしゃーい!」
「らっしゃーい!」
そしてオレは秋穂達に見送られて家を出た。
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