第101話 ジャッジメントアロー

 攻撃を当てられた人形は次の段階へと移行する。

 

「えっ?」


 四発目の矢を放ったホープイエローだったが、その矢が不自然にズレて外れる。決して人形の速さが上がったわけではない。

 ホープイエローは確かに狙った通りの場所に矢を射った。しかしその矢は人形に当たらずに、その真横を通り抜けていった。


(おかしい。私はちゃんと狙った場所に……移動パターンを変えてきた? ううん、違う。あの人形はちゃんと私の思った通りの場所に現れたのに。でもじゃあどうして私の矢が外れたの?)


 刹那の間に思考を張り巡らせるホープイエローだが、明確な答えが出てくるはずもない。

 少しでも情報を集めるためにと、ホープイエローはもう一度人形に向かって矢を放つ。しかしそれは先ほどと同じように人形の真横を通り抜けていく。


「また同じ……」


 最初に調子よく当てていたことが嘘だったかのように、その後の攻撃は躱され続け、とうとう人形に接近を許してしまう。

 遠距離で戦うことを主体としているホープイエローにとって接近されるのは何よりも避けなければいけないことだ。

 そもそも剣術を学んでいるブレイブブルーや喧嘩で磨き上げた近接戦闘術を持つラブリィレッドと違い、ホープイエローは近距離での戦闘が得意では無かった。

 もちろん魔法少女として変身している間は身体能力を強化されている。だが、だからと言って過信できるほどのものではない。

 人形を近づけさせてしまったというのは明らかに失敗だった。しかしホープイエローはそこで焦らなかった。


(焦っちゃダメ。遠距離で戦闘するスタイルの私は接近された時の対処を間違えたら一気に不利になる。こういう時他の魔法少女なら……そう、例えばサウザンドアローならきっと……)


 思い浮かべるのは弓使いの魔法少女サウザンドアロー。

 魔法少女に変身し、弓で戦っていくと決めた時に目標と定めた人物。

 その名の通り様々な弓の技術を持つ彼女は、近距離に近づかれた時の対処法も心得ていた。


「こうする!!」


 矢尻に魔力で作りだした紐を括りつける。そして人形が殴りかかって来るよりも速く後ろの柱に向けて矢を射った。

 矢尻に括りつけていた紐はそのままホープイエローの腕に繋がっており、矢の勢いに引かれて高速で移動する。矢を利用した無理やりの高速移動。サウザンドアローの得意とする距離の開け方だ。

 

「上手くいった、でも……」


 チラッと左腕を見る。そこには確かに人形の攻撃が掠った後があった。しかしホープイエローの見たうえでは確実に避けていた。攻撃が届くよりも前に避けたはずなのだ。


「私が避けるよりも早く? ううん、違う。もしかしたら……」


 ホープイエローは一つの可能性に辿りついた。それは、見ている光景そのものが間違っている可能性。


「ためしてみる価値はある。『スプラッシュアロー』!!」


 人形のいる方へ向けて矢を放つ。その矢は一気に拡散し、人形に命中する。だが、その矢はホープイエローが視認している人形の位置よりも手前で当たった。


「やっぱり。見えてるあれはフェイク。幻影みたいなもので本体は姿を消してたわけか」


 矢がズレたのも、避けたと思った攻撃が当たったのも同じだ。見ていた人形は幻影で、本体が別の場所にいたからこそ起きた誤差だったのだ。


「タネがわかったらもう怖くない。『ペイントショット』!」


 視認できないなら視認できるようにしてしまえばいい。当てた相手に色を付けることができる技を使ってホープイエローは人形に印をつけた。

 そこからはホープイエローの独壇場だった。速さを上げて近づこうとしても、ホープイエローは矢を使った高速移動を使って距離を保ちながら矢を放ち続け、ジワジワと追い詰めていく。

 今のホープイエローは完全に場を支配していた。


「……あなたならあれにどう対処する?」

「どうって言われても」


 その光景を後ろで見ていたラブリィレッドとブレイブブルーは想像していた以上の実力を披露するホープイエローに驚きを隠せていなかった。

 ホープイエローが見せた強さは派手な強さではない。しかし確実で堅実な強さだった。射撃の精度もさることながら、その対応力の高さが見て取れた。

 直感的に戦うラブリィレッドとは真逆とも言える戦い方だ。


「彼女、確かに強いわね……決めるみたいよ」


 ホープイエローの魔力が高まっていく。最後の一撃、必殺技を放とうとしているのだ。


「そこっ!」


 四肢を拘束する特殊な矢で人形のことを捕らえるホープイエロー。

 そして——。


「『ジャッジメントアロー』!!」


 動けなくした所へ全力の一撃が叩き込まれ、人形の体を貫いた。

 

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