第100話 ホープイエローの実力
「……よし。頑張ろう」
ラブリィレッドとブレイブブルーが後ろで見ているという状況に若干の緊張を感じながら、ホープイエローは目の前の人形に目を向ける。
自由に様々な設定ができるという人形。今回はホープイエローの武器が弓ということで、対遠距離設定となっていた。強さ自体はそこまでではない人形だ。
「彼女達に認めてもらうためにも、こんな所で躓いていられない」
弓を持つ手に思わず力がこもる。
ホープイエローはなんとしても二人に認められたいと思っていた。
そもそもラブリィレッドやブレイブブルーと違い、ホープイエローはソロで活動し続けられると思うほど自分の力を過信していなかった。
前回の怪人と戦った時もそうだ。最終的になんとかすることはできたものの、仲間と連携できればもっと確実な手段で追い詰めることができていたはずだと考えていた。
人が一人でできることなど限られている。それは魔法少女であっても同じだとホープイエローは思っている。
ラブリィレッドやブレイブブルーがなぜソロでの活動に拘るのかは知らない。だからこそ今のホープイエローにできるのは可能性を見出すこと。完全に切り捨てられるのではなく、自身の有用性を二人に伝えて少しでも認めてもらうことだ。
(そもそも初対面の私がいきなり二人の仲間になりたいなんてそれがそもそもおこがましいっていうか、私なんてまだまだ新参の魔法少女なわけだし。そもそも魔法少女に変身できるだけで魔法少女なのかっていうとそう言うわけじゃ無い気もするし。もっとこう心構えというか、そういう所から魔法少女らしくなっていかないといけないわけだし。そう考えたら私なんてまだまだ魔法少女じゃないよね。ただ魔法の力を使えるようになった一般人とかコスプレイヤーとかそんなレベル……ううん、それ以下の存在かも。だいたい——)
低姿勢を通りこしていっそ卑屈なまでの思考に至ってしまうホープイエロー。これが自身の悪癖であるということに彼女自身はまだ気付いてはいなかった。
「まだ始めないのかな?」
「えぇ、何か考え事をしてるみたいだけど。どうかしたの?」
「っ!? あ、いえ。なんでもないです。すみません。すぐ始めます」
ブレイブブルーに声をかけられてハッと我に返ったホープイエローは改めて戦う姿勢に入る。
人形はホープイエローの魔力の動きを感知した時点で動き始めるようになっている。それが始まりの合図だ。
「行きます」
ホープイエローの矢を生成するための魔力を検知した人形が動き始める。その動きは思いのほか俊敏だった。
「思ったより速いね。で、実際の所あの人形ってどの程度の強さなわけなの?」
「強さ自体はそこまでじゃないわ。私やあなたの実力でも勝てるレベル。ただ、遠距離武器を使う彼女にとってはあの速さは厄介ではあるはずよ。それどう対処するか、まずはそこね」
「なるほどね」
速いというのはそれだけで厄介だ。疲れを知らない人形は絶え間なく動き続け、狙いを絞らせない。先読みして矢を当てるのか、それとも追尾するような魔法を使って狙いに行くのか。そこが第一関門だった。
「…………」
ホープイエローは縦横無尽に部屋の中を動き回る人形をジッと静かに観察し続けた。そして——。
「そこです!」
全く見当違いの方向に矢を放つホープイエロー。最初は何を狙っての一撃かわかっていなかったラブリィレッドだったが、次の瞬間には驚きに目を見開いた。矢を放った先に人形が現れたからだ。
その結果はもちろん命中。そして一発目だけでなく二発目、三発目も確実に命中させていく。
いずれも最初と同じようにいなかった場所へ向けて撃ち、命中させたのだ。
「何あれ。未来予知みたいな?」
「違うわね。あれは予測よ。それでもかなりの精度みたいだけど。人形の動きの規則性を見出して、そこを狙ってるのよ」
「規則性って、そんなのあるの?」
「あれも人形よ。もちろんあるわ。ただここまで早くその規則性を見抜けるのは驚きとしか言いようがないけど。あなたよりは頭が良いみたいね」
「むぐっ、ホントに一言余計って言うか」
「事実でしょう。さぁ、第一関門を突破したら次の段階へ移行するわよ」
「次?」
疑問を浮かべるラブリィレッドの前で、立て続けに三発の攻撃を受けた人形が変化を始めた。
「あの人形は学び、そして対処し始める。ここからが本番よ」
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