第98話 ホープイエローの提案
な、なんなんだこいつは。
「わぁ、本物だ。本物のラブリィレッドさんだぁ。それにブレイブブルーさんまで。まるで夢みたい」
部屋に入って来るなり目を輝かせながらオレの手を掴んできたホープイエローに思わず面食らう。
まさかこんな対応されるとは思ってなかった。ブレイブブルー……青嵐寺の時が大概だったからな。あいつが滅茶苦茶喧嘩売ってきやがったから。
こいつも同じような感じかと思って構えてたんだが……まさかいきなりこんな友好的な感じで来られるとはな。
「え、えっと……」
「あ、ごめんなさい!」
オレが戸惑ってることを感じたのか、ホープイエローがパッと手を離して距離を取る。こうしてみると最初部屋に入って来た時に感じた怜悧な印象は無いな。
「こほん、えっと改めて……私はホープイエローです。あなた達のことは存じてます。ラブリィレッドさんとブレイブブルーさんですよね」
「あぁ、うん。そうだよ」
「えぇ、間違いないわ」
今さら取り繕ってももう遅いだろ、とは流石に言えねぇか。頑張って真面目な雰囲気を出そうとしてるしな。
「それにしても、ラブリィレッドはともかく私のことまでよく知ってたわね。ラブリィレッドとは違ってそこまで表に出たことは無かったはずなんだけど」
言われてみれば確かに。亮平の奴が魔法少女好きだからなんだかんだ色んな魔法少女の名前は聞いたことあったが、ブレイブブルーの名前を聞くことはほとんどなかった。確かにこいつはあんまり表に出てなかったんだろうな。
「確かにあまり表に出てる印象はないですけど、それでも記事になったりはしてましたから。私、魔法少女の記事は全部切り抜いてスクラップにしていて——ゴホンッ、興味があって調べたりしてましたから」
いやもうそれ誤魔化せてないからな。なんとなく片鱗は感じてたがもう間違いねぇだろう。こいつ……魔法少女オタクだ。それも下手したら亮平以上の。
そんな奴が魔法少女になるなんてのは因果なもんだと思うが……そうしたのも全部コイツってわけだ。
ずっと黙ってニヤニヤとしながらホープイエローの隣を飛んでいたフュンフに目を向ける。
「あら、どうしたのラブリィレッド」
「どうしたもこうしたもないでしょ。いい加減この状況について説明して欲しいんだけど?」
「説明も何も、今の状況が全てでしょ。あなた達に新しい仲間を紹介しに来てあげたんじゃない」
なるほどな。やっぱりそう言うことだったか。
ようはブルーの時と一緒なんだろう。こいつはオレ達三人でチームを組んで行動しろって言ってるんだ。
だが、だとしたらオレの答えは変わらない。ホープイエローがどういう気かは知らねぇけど、答えは一つだけだ。
「悪いけど——」
「私はパスよ」
「え?」
オレが断るよりも先に、ブルーがにべもなく切り捨てる。
まさかそんな風に断られるとは思って無かったのか、フュンフの隣にいたホープイエローが目を丸くする。
「私はあくまでソロで活動させてもらうわ。ホープイエロー、あなたがどの程度の実力かは知らないけど私には関係ない。そんな話をするために私達をここに呼んだのフュンフ」
「そんな話とは酷いわね。あなた達にとっても悪い話じゃないでしょう。この間無様に負けたあなた達にはね」
「「っ!」」
煽るようにフュンフに言われて思わず苛立ちが顔に出る。
「怒るのは勝手だけど、あなた達が実力不足であることは間違いないでしょう」
「あなた、言わせておけば好き放題言ってくれるじゃない」
「さすがに今のはちょっとかちんと来たかも」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
オレ達とフュンフの間に流れる不穏な空気に気付いたのか、ホープイエローがオレ達の間に割って入ってくる。
「あの、落ち着いてください。まずは冷静に話し合いを」
「私は事実を言ってるだけなんだけど」
「フュンフ!」
「はいはい。私は黙ってるわよ。後は勝手にしなさい」
思いのほかすんなりフュンフは後ろに下がる。
「すみません、でもあのままじゃ良くないと思ったので。あの……その、私と仲間になってもらえませんか?」
「さっきも言ったでしょう。私はあくまでソロで活動するわ。これからもね」
「悪いけど私も同じかな。誰かと一緒よりはソロの方がやりやすいし」
ブルーと組んだのだって前回だけだ。それも事情があっての話。オレのスタンスは変わらねぇ。
「ど、どうしてもダメ……ですか?」
「私が今日ここに来たのは、おそらく来るであろうあなたがどんな人なのか気になったから。ただそれだけよ。期待させたのなら悪かったわね」
「私は連れてこられただけなんだけど。まぁ答えは彼女と一緒かな」
「……だったらせめて私の力を見てもらえませんか。それから決めて欲しいんです」
「え?」
「私がお二人の力になれることを、証明してみせます」
そう言ってホープイエローはオレ達に意思のこもった強い視線を向けてきた。
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