第99話 ブルーの狙い

 力になれることを証明してみせる。

 ホープイエローにそう言われてからオレ達は『グリモワール』にやって来ていた。

 正直帰っても良かったんだが、ブルーの奴が意外にも承諾したからな。その場の空気に流されてオレも連れてこられたわけだ。

 ……なんか魔法少女になってからなんだかんだ流されてばっかりだな。いや、今は考えなくていいか。


「ここが、『グリモワール』……すごい」


 初めて『グリモワール』に来たらしいホープイエローは驚きを隠せないのか、周囲をキョロキョロと見回している。

 まぁその気持ちはオレもわかる。たぶん昨日のオレもあんな感じだったんだろうな。それくらいここは今までの人生で培ってきた常識がぶち壊される場所だ。

 そしてオレにとっても予想してなかったことがあった。


「転移石なんて魔道具あるならもっと早く知りたかった……」

「こんな場所まで毎回飛んで来れるわけないでしょ。使い捨てだけど、いくつか持っておくと便利よ。白の塔の方に行けば買えると思うわよ」

「白の塔か……昨日は行かなかったからなぁ」


 指定した地点への瞬間移動を可能にする魔道具。

 確かにオレ達の住んでる場所から『グリモワール』まではかなり遠いからな。あるとないじゃ雲泥の差だ。

 オレもいくつか用立てておく必要があるだろう。問題はいくらかかるかってことなんだがな。


「まぁ、その辺りの話はこの後でも構わないでしょう。それよりも早く用を済ませてしまいしょう」


 この場所に来た理由はホープイエローの実力を見せてもらうためだ。この場所の時間の流れが外と比べて遅いとはいえ、用をさっさとすませるに越したことは無い。

 その後の流れは昨日ここに来た時のオレと似たようなものだった。中央塔へ行き、ホープイエローの登録をする。それから黒の塔方面へといき、個人で借りることのできる練習場へやって来た。

 昨日教官のいた場所に比べたらだいぶ小さいが、まぁこの人数で使うなら十分な広さだろう。


「この場所は様々な設定ができるようになってるわ。魔道具の技師たちが作りあげた模擬戦闘用の人形があるの。対魔法装甲に特化した人形。対物理に特化した人形。それ以外にも色々とね。今回はとりあえず全て平均値の人形を用意するわ。それをもってあなたの力を見せてもらうとしましょう」


 へぇ、そんなことができんのか。確かに相手になる存在がいた方が便利だしな。

 そういうのがあるなら一人でも色々と試せそうだ。


「ここでなら本気を出しても問題ないわ。建物の強度自体も並みじゃないもの。私達が本気で魔法を使ったとしても穴を開けることすら不可能でしょうね」


 嘘は言ってないんだろうが……そうなると余計に昨日の教官がどれだけ規格外だったかわかるな。穴を開けるどころか建物ごと崩壊させてんだから。


「……わかりました、ありがとうございます」

「それじゃあ見せてもらいましょうか。あなたの力を。好きなタイミングで始めるといいわ」


 ブルーはそう言うと壁の方にいたオレの所へとやって来る。


「で、どういうつもりなわけ?」

「どうって、彼女の力を見るんでしょう」

「それはそうだけど。だからどうして力を見る気になったのかって話。私もブルーもソロで活動することに変わりはない。そうでしょ」

「えぇそうね」

「だったらわざわざ期待を持たせるようなことしなくても」

「ふふ、珍しいわね。ずいぶん優しいことを言うじゃない」

「むぐっ、べ、別に優しいってわけじゃ……」

「どうせあのままじゃ素直に引き下がらないでしょうし、一度見ておくのも悪くないと思ったのよ。彼女がいったいどれほどの実力なのかをね」

「…………」


 まぁ確かにその気持ちはわからないでもない。オレも興味があるかないかで言ったらある方だしな。亮平から聞かされたニュースとかからどんな方法で戦うとかはある程度知ってる。でも知ってるだけじゃわからないこともある。

 それを確かめるには実際に自分の目で見るのが一番だ。

 見せてもらおうじゃねぇか。フュンフが選んだ新しい魔法少女の力を。

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