第90話 全身ズタボロでした

「だからあなたという人はもう少し加減というものを知ってくださいと何度も言ってるでしょう!」

「あー、わかったわかった。次からは気を付ける」

「そう言って反省したことなんて一度もないじゃないですか!」


 なんだ……声がする……誰の声だ?

 全身が痛ぇ。体が起き上がらねぇ。なんでオレ……どうなって……確か、教官と戦って、技を喰らって……そっからどうなったんだ?


「だいたいあなたは昔から——」

「あぁ小言は後で聞いてやる。それよりも、起きたみたいだぞ」

「え?」

「こんなに早く目を覚ますとは思わなかったな。どうやら想像してる以上に頑丈なようだ」

「信じられない。あなたの剣を受けたのに」

「う……」

「あ、ダメよ。まだ起き上がっちゃダメ」


 誰の声だ? 聞いたことない声だな。

 異常に思い目蓋を無理やり開くと、視界に飛び込んできたのは二人の女の顔。一人はわかる。教官……ソードメイデンだったか。そいつだ。でももう一人はわからねぇ。

 白衣に眼鏡に……姿から察するに、医者か?


「私の姿はちゃんと見えてる? これ何本?」

「……三本」

「うんうん。視界にも問題無しと。すごい回復力ね。さすがに驚きだわ」

「ここは……」

「ここは医務室よ。黒の塔の近くにある。あんな場所だから怪我する人が多いのよ。あなた達ほど大怪我するのは滅多にないけどね」


 大怪我……そんな大怪我したのか、オレ……。

 確かに全身滅茶苦茶に痛ぇけど。


「もうすごかったんだから。全身の骨は折れてるし、内臓まで傷ついてたし。もう死ぬ一歩手前っていうか。というか後少し遅れたら死んでたわね。彼女も」

「彼女?」

「彼女よ、ブレイブブルー」

「あっ——っぅ……!!」


 思わず痛みを忘れて体を起こす。

 だが、その直後に激痛が全身を走った。


「もう、だから体起こしちゃダメって言ったのに。そんなに彼女のこと心配だったの?」

「別にそんなこと……」


 チラッとブルーの寝てるベッドを見る。そこに居たのは変身した姿のままスヤスヤと眠ってるブルーの姿。

 別にだからどうってわけじゃねぇけど、まぁ、寝てるだけみたいだな。呑気に寝やがって。


「あ、今ちょっとホッとしたでしょ」

「してない。呑気に寝てるなとは思ったけど」

「誤魔化さなくてもいいのに。ふふっ、可愛い♪」

「~~~~っ」


 無性に恥ずかしくなって顔を逸らす。

 なんなんだこいつは。

 って、そういやオレも変身したままなのか。


「変身した状態だと治癒能力も飛躍的に向上する。骨折程度なら数時間で自然治癒するほどにな。そこにこいつの治癒魔法を合わせれば、例え死に瀕していようとも……いや、死んだ直後であれば蘇生すらできる」

「だからっていくらでも怪我させていいわけじゃないから。痛みは変わらないんだし。その辺りのことちゃんと理解してる?」

「むぅ……」


 バツの悪そうな顔をする教官。戦ってる時には見なかった表情だ。

 こんな顔もするんだな。


「自己紹介が遅れたわね。私はプレアナース。魔法少女よ。今はほとんど前線に出ることはないけど、これでも昔は彼女……ソードメイデンと一緒によく戦ったりしたわ」

「確か愉快な二つ名があったんじゃないか?」

「止めて。全くあなたは……。今はこの『グリモワール』で医者の真似事をしてるわ」

「真似事の域を超えてると思うがな。まだしばらくは動けないだろう。ここで休んでいるといい」

「ども……」


 誰のせいでこんな怪我したと思ってんだって話だが。まぁ治療してもらったのは確かだ。

 そこだけは感謝しとくべきだろう。


「とりあえず怪我はほとんど治したけど、完璧じゃないからまだゆっくりしててね。あと三十分くらいしたらもっと良くなると思うから」

「それくらいで?」

「言っただろう。魔法少女として変身してる間は治癒能力も向上すると。その程度の怪我、すぐに治る」


 この全身を走る痛みがたった三十分程度で治まるとは思えないんだが……もう何度目になるかわからねぇけど、とんでもねぇな魔法少女ってやつは。


「さて、お前も目覚めたことだしちょうどいい。単刀直入に問おう。嘘や誤魔化しは通じないと思え」

「? 一体何を……」


 疑問府を浮かべるオレの様子など歯牙にもかけずに問いかけてきた。


「お前、男だな」

「っ!?」


 そう言って教官は鋭い目でオレのことを射貫いた。

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