第89話 『千剣万華』

「『千剣万華』」


 大剣に集約された極光が視界をオレの視界を焼く。こうしてここにいるだけでもわかる。

 あれは全てを滅ぼせる一撃だ。


「っ……」


 逃げる。ダメだ間に合わない。

 受け止める。あんな一撃を止めれる手段は持ってねぇ。

 でも……。


「ははっ」


 思わず笑いがこみあげる。圧倒的な力を目の当たりにして頭がおかしくなっちまったのかもしれねぇ。

 だが、絶望的なこの状況下においてオレはどうしようもなく高揚してた。

 あれが純粋な力。小手先の誤魔化しなんかじゃない。全てを打ち砕くための力。

 試してみたい。今のオレの力がどこまで通用するのか。無謀だと思われるかもしれねぇ。それでも——。


「燃え盛れ——『炎想の愛ラブオブファイア』!!」


 全力の魔力を込めて、今のオレが出せる最大火力の一撃を放つ。

 それとほぼ同時、力を溜めていた教官がその力を解放した。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


『千剣万華』。

 それは教官——ソードメイデンの使う十の魔法剣技の内の一つ。

 全てを無に帰す滅却の一撃。本来であれば建物の中で使うような技ではなかった。 

 ラブリィレッド以外の魔法少女達はそのことを知っていたからこそ我先にと逃げ出したのだ。ソードメイデンの放つ技に巻き込まれないために。

 ソードメイデンが長い年月をかけて磨き上げてきた技。とても経験の浅い魔法少女に対して使うような技ではない。

 どんなに手加減をしたとしても大怪我は避けられないことは明白だった。

 しかしそれでもソードメイデンは試してみたかったのだ。

 抗うことすら無意味と感じてしまうような一撃を前に、逃げ出すのか、それとも意志が折れてしまうのか。

 言ってしまえば、窮地に陥った時にラブリィレッドとブレイブブルーがどう対処するかを知りたかったのだ。

 これまでにも同じような試しを教え子たる魔法少女達に行ってきた。しかし、そのほとんどがソードメイデンの期待に沿うことは無かった。

 

(さぁ、お前達はどうでる。ラブリィレッド、ブレイブブルー)


 多くの生徒達が逃げ出すなか、ソードメイデンの目は二人だけに向けられていた。

 ソードメイデンの力が膨れ上がっていくなか、二人はまるで硬直してしまったかのように動かない。

 これまでの生徒達と同じ。圧倒的な力の前に恐怖し、屈してしまったかのような姿。しかし、ここで予想外のことが起こった。


「ははっ」


 ラブリィレッドが笑ったのだ。

 恐怖に気が狂ったのかと思ったソードメイデンだったが、すぐに違うことに気づいた。

 ラブリィレッドの目に浮かんでいたのは、高揚だった。

 ソードメイデンの圧倒的な力の前に、確かに抗う意思を見せたのだ。


(あくまで抗うか。悪くない。なら見せてみろ、お前の力を!)


「燃え盛れ——『炎想の愛ラブオブファイア』!!」


 折れるようなら放つつもりはなかった一撃をソードメイデンは二人に向けて放った。極光を纏った斬撃がラブリィレッドとブレイブブルーに向かって襲いかかる。

 そして、ラブリィレッドの放った魔法とソードメイデンの放った斬撃が正面からぶつかり合った。


「ぐっ、くぅ……っ!」


 必死に押し返そうとするラブリィレッドだったが、その力の差は圧倒的だった。

 抵抗も空しく、斬撃はラブリィレッド達に迫る。

 だが、ここにはラブリィレッドと以外にももう一人いるのだ。


「『水衝刃』!!」

 

 ブレイブブルーの放った水の斬撃がラブリィレッドの後ろから飛んでくる。

 一発や二発じゃない。何発も連続で力の限界近くまで放ち続ける。

 それを見たソードメイデンはフッと相貌を緩ませる。


「ラブリィレッドの勇気に触発されたか? 面白い、合格だ」


 それは二人がソードメイデンの期待に応えたということであり、それと同時に終わりを告げる言葉でもあった。


「嘘っ!?」

「え?」


 ソードメイデンが再び大剣を構えたのを見て、二人は顔を青ざめさせる。


「終わりだ」


 無情にも放たれる一撃。そして、二撃目の斬撃が二人の魔法すら喰らい尽くし——建物ごと二人のことを呑み込んだ。

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