第88話 論外だ
暴風のように吹き荒れる魔力。今までに感じたことがないくらいの、荒々しい力の奔流。
これが……これが教官の力ってわけか。
「さぁ、今度はこちらからも行くぞ。目を逸らすなよ」
「っ、来る!」
「上等!」
猛烈な勢いで距離を詰めてくる教官を迎え撃つために拳を構える。あの速さ、オレの魔法じゃ捉えきれない。だったら素直に殴りに行く方がいい。
教官の初撃をブルーが受け止めたのを見て、その反対側から攻撃を仕掛ける。
「遅すぎる」
「ぐぅっ!」
ブルーの剣をいなしつつ、反対から攻めてきたオレに対して視線すら向けずに蹴りを繰り出してくる。でっかい鉛でもぶち込まれたんじゃねぇかってくらいの衝撃。
一瞬飛びかけた意識を必死で繋ぎ止めた。ダメだ。オレが攻撃を仕掛けるタイミングが完全に読まれてる。なんでわかるんだ。
「今の一撃で意識を飛ばさなかったのは褒めてやる。だが、動きに無駄が多すぎる」
ブルーの剣を受け止めながら教官はオレの足りない所を指摘してくる。
「私が本気ではないとはいえ、ブルーはまがいなりにも私の剣を受け止めている。それに対してお前はどうだ? 言っておくがブルーの方が私との戦闘経験を積んでいるからじゃないぞ。こいつは初めてあった時も私の剣を止めてみせたからな」
「っ……」
ギリッと歯を食いしばる。
つまり今のオレは、半年前のブルー以下ってことかよ。
「もちろん今のブルーの動きに無駄がないわけじゃない。だがこいつはただ漫然と見るのではなく、しっかりと視ることを意識している。私の行動の起こりを、剣の軌道を。そしてどう攻めてくるかと予測している。お前は違うな。ただ行動に対して反応しているだけだ」
「このっ!」
言われっぱなしでいれるか!
絶対にこいつに一泡吹かせてやる!
だが、もちろんオレも教官の言うことは理解してる。今までみたいに場当たり的な対処の仕方じゃこいつには届かねぇんだろう。
でもな、オレの戦い方だって一つじゃねぇんだ!
「無意味な突進を……いや、違うな。これは……」
「縛って——『
相手の動きがちゃんと視れてねぇってなら、そもそも相手の動きを制限しちまえばいいって話だろ!
地面から伸びた赤い鎖が教官に向かって伸びていく。まだブルーは攻撃を止めてねぇ。オレの鎖に対処しようとしたらそっちが疎かになるだけだ。
逆にオレの鎖を甘く見るならそれでもいい。さぁ、どう動く。
「悪くない。選択肢を絞ることでそもそもの動きを制限しようという考え。だがもっと根本的なことを失念しているな」
「え?」
鎖が教官に体に巻き付き、その動きを完全に封じ——っ!?
「私はお前達よりもはるかに強い」
「きゃぁっ!」
「っぅ!?」
大剣を一振りしただけ。それだけでオレの鎖はいとも容易く引きちぎられた。あのグロウですら少しは縛れたってのに。
しかも剣を振った時に起こった衝撃波だけでオレもブルーも吹き飛ばされた。
「自分の力に自信を持つことはいい。だが過信は禁物だ。あのグロウとの戦い……私も後で戦闘データを確認した。これはお前達二人の共通していることだが、己が優位に立った時に油断する。油断が命取りであることは誰が言わずともわかるだろ。ブレイブブルーもそうだが……ラブリィレッド、今のお前は論外だ。あまりにも自分が見えてなさ過ぎる」
「自分が……見えてない?」
「見せてやろう。己を知るということの意味を。己の力をどうすれば最大限に生かせるかを」
王の風格。絶対的な強者としての存在感を放つ教官。その体から放たれる力がさっきまでとは比べものにならないほど上がっていく。
感覚としてはグロウが真の姿を見せた時と近い……いや、下手したらそれ以上か?
それを見て、周囲でオレとブルーの戦いを観戦していた魔法少女達がざわめきだす。
「ま、まずいんじゃないのあれ」
「えぇ、教官……あの技をここで使うつもりだわ」
「嘘! ありえないんだけど!」
「に、逃げるわよっ!」
顔を青ざめさせながら逃げ出していく魔法少女達。だが、オレとブルーは動けない。動きたくても動けねぇ。
逃げ出せるならオレだって逃げ出したい。
だが、蛇に睨まれた蛙。教官の放つ殺気に絡めとられたように、その場から逃げ出せない。
「受けて見ろ、私の剣を」
膨れ上がっていた魔力が全て大剣へと集中する。
そして——。
「『千剣万華』」
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