第79話 グリモワール
ラブリィレッドへと変身したオレが向かったのは人里から離れた山。
前に行った月喰山とは違って変な噂があるような場所じゃない。ただ崩落の危険があるとかで立ち入り禁止の場所になっている。あくまで表向きは。
表向きって言うのは、そこが魔法少女統括協会によって管理されてる場所だからだ。魔法の練習場所として。
なんでそんな場所があるのかと思ったんだが、まぁ確かに必要と言えば必要な場所だろう。街中でいきなり新魔法をぶっ放すわけにもいかねぇし。
オレは何度かそれをやっちまってるわけなんだが……。ともかく、真面目な武闘派の魔法少女はそこに行って魔法の練習してるってわけだ。
「おっとっと……うーん、なんか久しぶりに変身すると感覚が……」
あの日から魔法少女に変身してなかった。というか、よく考えたらフュンフに無理やり魔法少女にされた日から魔法少女に変身しない日ってほとんどなかったんだよな。そう考えたらなんか複雑な気分が。知らねえうちに体が毒されてたっていうか。
ブランクってほどじゃねぇけど、もともと飛ぶのには慣れてなかったからな。早いとこ感覚を取り戻さねぇと。
今さらだが、翼もないのに空を飛ぶってのは妙な感じだ。しかも飛んでるオレですら理屈がわからないままに飛べてるからな。
「さてと、あそこにいると思うんだけど……」
オレがそこに向かってるのにはもちろん理由がある。
別に魔法の練習をしようとかそういうわけじゃない。ただそこにあいつが……青嵐寺の奴がいると思ったからだ。
ここ最近放課後になるといつもどこかに行ってるみたいだったからな。一回フュンフが家に戻ってきた時に聞いたら、そこに行ってるんじゃないかって話だった。
だから本当にいるかどうかはわからないが、一度行ってみようと思ったわけだ。ま、一回その練習場も見て見たかったしな。
「でも……そろそろのはずなんだけど、それらしいの全然見当たらないなぁ」
そんなに目立つような場所だとは最初から思ってなかったが、魔法の練習してるってくらいだからそれなりに開けた場所があったり、音が聞こえたりすると思ってたんだが。
今のところそれらしいものは全く見当たらない。
「場所間違えた? でも確かに書かれてるのはここだったはずなんだけど」
周囲を見渡してもそれらしい場所はどこにもない。
ちゃんとした場所を調べてから来るべきだったかと思いながら周囲をフラフラ飛んでると、突然薄い膜のようなものを突き破ったような感覚に襲われる。
「な、なに今の……って、えっ!?」
目の前の光景を見たオレは愕然とする。
そこにあったのは、これまでとはまるで一変した景色だった。
さっきまで目の前に広がってたのは、木ばっかりが目に入る自然の光景だった。でも今はまるで違う。そこにあったのは、巨大なビルだ。その周囲も完全に開拓されて色んな建物が建ってる。
「え……いや、え?」
百八十度変わった景色に戸惑いが隠せない。
な、なんだこれ。オレ幻覚でも見てるのか?
「ちょっと、どいてどいてー!!」
「ごめんねー!!」
「うわぁっ!」
オレの横スレスレを見知らぬ魔法少女達が飛んでいく。
というか、さっきまでは誰もいないと思ってたのに気付けば周囲には何人もの魔法少女がいた。
それぞれ魔法を撃ち合ってたり、空中に絵を書いてたり……あげくの果てには浮いたまま寝てる奴までいる。
ダメだ。情報が多すぎるだろこれ。頭がついていかねぇ。
ここがオレの来ようとしてた場所なのか?
「まぁこれだけ魔法少女がいるってことはそうなんだろうけど……えー、こんな場所だったの?」
フュンフの奴、オレのこと驚かせようと思って黙ってやがったな。どうりで話してる時妙にニヤニヤしてたわけだ。
とにかくあの一番でかいビルのとこに行ってるべきか?
なんかもう完全に施設って感じだし、誰かに話を聞かねぇと右も左もわからねぇし。
もっとこじんまりした場所だと思ってたからな。さすがにこの中から情報なしで青嵐寺のことを探そうと思ったら骨が折れる。
「そこのあなた、止まってください」
「え?」
ビルに向かおうとしたら突然背後から声を掛けられて呼び止められる。
って、あれ、こいつ確か……。
「センリさん……でしたっけ?」
「やっぱりあなたでしたか。えぇ、そうです。登録番号1000の魔法少女センリです。また会いましたね」
「えっと……何か用ですか?」
呼び止められた理由がわからねぇ。今回は別に何かしたってわけでもねぇし。
「そんなに怯えなくても大丈夫です。別に悪い意味で呼び止めたわけではありませんから。ただ、無登録の魔法少女による結界の突破が確認されたので一応こうして来ただけです」
「無登録?」
「この場所は一応登録制です。まぁ登録にそこまで厳しい条件はありません。魔法少女統括協会に所属していることだけです」
「あ、そうだったんですね。私も何も知らなくて」
「それはそれで珍しいですね。何も知らずにこの場所に来るなんて。だったらさぞ驚いたのでは?」
「それはまぁ、はい」
「でしょうね。私も初めての時は自分の目を疑いましたから。でしたら私が案内しましょう。まずは受付で登録してもらう必要もありますし」
「いいんですか?」
オレにとっては渡りに船だ。断る理由もない。青嵐寺のことも聞けるかもしれないしな。
「えぇ、どうぞこちらへ」
先導するように移動し始めたセンリは、そういえば言い忘れていたと言って、オレの方へ振り返る。
「ようこそ、魔法少女の力と知の集う場所『グリモワール』へ」
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