第80話 ゲームでいうチュートリアルを受ける場所
青嵐寺を探しに来たら近未来都市に迷い込んだ件について。
「はえー……」
いや、うん、マジでそんな感じだ。でかいビルはあるし、なんか浮いてる建物までありやがる。どんな原理で浮いてんだよ。いやまぁ、たぶんあれも魔法なんだろうけどな。それにしたってもっと常識ってもんが……って、それこそ今さらか。
「ずいぶん驚いていますね」
「え、あぁ。そのなんていうか……ちょっと自分の常識が崩されそうで」
「ふふ、わかりますよその気持ち。私も初めてきた時は同じような気持ちになりましたから」
「やっぱそうですよね」
こんなの見たら誰だってそうなる。情報量が多すぎて目が回りそうだ。
そんなオレは今センリ先導のもと、一番目立ってて一番でかいビルへ向かってる。
その道中でこの『グリモワール』とかいう場所についての簡単な説明を受けることになったわけだ。
でも正直話の半分も理解できてねぇな。
「この『グリモワール』は大きくわけて三つの区画に分かれています。三つの塔があるのが見えますか?」
「あぁ、あれですか?」
確かに三つの塔が見える。一番でかい塔はオレ達が向かってる塔の近くに立ってる。
他の二つは白と黒の塔だ。
「白の塔は知、黒の塔は力の区画です。簡単に言えば白の塔はこれまでの魔法少女達が培ってきた様々な魔法のデータが集約されています。私のような戦闘に向かない魔法少女達がよく利用しています。逆に黒の塔は古今東西の剣術や体術、それに魔法の力が組み合わされた様々な戦闘スタイルの研究がされています。あなたのような戦闘タイプの魔法少女がよく利用していますね」
「なるほど……それじゃあ最後の塔は」
「二つの塔を管理する中央塔。この『グリモワール』を管理する職員たちが働いています。何か質問があれば中央塔に行くといいでしょう」
「なるほど」
話から察するに、青嵐寺の奴が行ってそうなのは黒の塔の方だな。
「ちなみに、白の塔の方には魔法技師が生み出した魔道具が売られていますよ」
「魔道具?」
「えぇ。魔法技師とは言いますが、その実は造る技術に長けた魔法少女達が作りあげたものですけど」
「へぇ、そんな魔法少女達もいるんですね」
ほんと多種多様というか。人材に事欠かないもんだな。
「……あなた、本当に何も知らないんですね」
「え、あぁ。すみません。そういうの疎くて」
「この『グリモワール』についても、あなたと契約した妖精から最初に話されるはずなのですが。この場所は言わばゲームでいう所のチュートリアルを受ける場所ですから」
「……そんな話は一度もされませんでしたけどね」
フュンフの奴、マジで忘れてたのかあえて言わなかったのかどっちだ。
どっちもあり得そうなんだが。どっちにしても今度あったらぶっ飛ばす。
「ま、まぁそういうこともあるでしょう。ですがそうなると私も少し責任を感じますね」
「え?」
「あなたが初めて変身した時に魔法少女統括協会の話をしたのは私でしたから。最初の案内くらいは済ませておくべきでした。この場所に関する情報を与えられすらしていなかったというのは明らかな損失。この場所のことを知っているか知っていないかで魔法少女の生存率にすら関わってくるレベルです」
「は、はぁ……」
「やはりここは手引きのようなものを作るべきでしょうか。どう思いますか?」
「え、あぁ。いいんじゃない……ですか?」
「ですよね! 今度の会議で提案してみましょう!」
なんか前から思ってたけど、このセンリって人……だいぶ苦労性だよな。
ブラックかよって思うくらいに働いてるみたいだしなぁ。
新人魔法少女への手引きを作ろうって話なんだろうが、そんな提案を会議でしたらじゃあ発案者であるあなたが、ってなるのは目に見えてるしな。
別に義務でもないのにこうしてオレの案内を買って出るあたり、いい人なのは間違いないんだろうが。そのせいで損する性格って感じだ。
まぁ性分なんだろうし、オレが口出しするようなことでもないけどな。
「着きました。中に受付がありますので、そこまで行きましょう」
ビルの中に足を踏み入れると、中にいたのは普通の職員って感じの人ばっかりだった。まぁ魔法少女達もいるにはいるけど、ほとんど職員の人ばっかりだ。
「このビルで働いている人の多くは一般人です。魔法少女ではありませんよ」
「あ、そうなんですね。てっきり全員魔法少女なのかと」
「さすがに魔法少女達に事務仕事まで任せるわけにはいきませんから。私はまぁ……例外なのですが。ほんとにあのクソ上司が、いつまでふんぞり返ってられると……」
急にブツブツと呟きだした。なんかやっぱりたまに闇が見えるなこの人。普通に怖いんだが。
「あ、すみません。こっちです」
そのままセンリはずんずん迷うことなく進んでいく。
ビルの中にも色々あるみたいだな。ってなんだあれ? 土産屋?
「あぁ、あれは外国からこられた魔法少女の方がよく寄られていますよ。日本の『グリモワール』は世界有数と言われるほどの充実していますから、よく来られるんです」
「へぇ」
外国の魔法少女……全然知らねぇな。まぁ日本国内ですら知らねぇ魔法少女の方が多いんだが。
「ちなみに、『グリモワール』では一部の場所を除いて変身解除不可です。魔法少女の正体は最大の機密情報ですから」
なるほどな。まぁオレとしては変に探られないのは助かるが。
「新規登録の受付お願いできる?」
「はいはーいって、センリ先輩じゃないですか」
「お疲れ様。登録するのは彼女よ」
「彼女……あぁっ!! ラブリィレッドだ! 最近ニュースで見ないと思ったら。うわー、私結構応援してるんですよあなたのこと。握手してください!」
「えっ? え?!」
「はぁ、ごめんなさい。久瀬さん、そういうのはダメだと何度も言っているはずだけど?」
「えぇ、でも少しくらい」
「久瀬さん?」
「ご、ごめんなさい! え、えっと、登録ですよね。『魔法少女掲示板』のアプリ起動してもらえますか?」
「あ、はい」
「起動したら右下の方にバーコードを表示する欄があると思うので、そこを押してください。できましたか?」
「はい」
「そのバーコードをこちらにかざしてください」
言われるがままに機械にバーコードをかざす。すると、ピコンと軽い音がなった後に一枚のカードが出てきた。
「はい、大丈夫ですね。登録完了です」
「え、もう終わりですか?」
「はい。もともと魔法少女統括協会のデータベースと連携していますから。本人確認さえできれば大丈夫なんですよ」
「ずいぶんと便利というか」
「ははっ、でもここにはもっと便利なものがいっぱいありますから。ぜひ色々経験していってくださいね。何かわからないことがあればここに来ていただければ案内しますので」
「わかりました。ありがとうございます」
「あと最後に注意点なんですけど。この『グリモワール』内の施設を利用するには今のカードがいりますので。保管にはくれぐれも注意してください。アプリと連携させることもできますので、そっちの方をおススメしますけどね」
アプリと連携……なんかそういうのはえらく現代的だな。まぁそりゃそうか。そっちの方がいいんだろうし。
「もし無くした場合はすぐに申し出てください。お金はかかりますけど、再発行も可能なので。ちなみに施設利用でポイントが溜まりまして、そのポイントを利用して買い物なんかも可能だったりします」
「そこまで……」
「詳しいことはこの紙に書いてあるので、ちゃんと目を通しておいてくださいね」
うわ、めちゃくちゃ多いな……読まねぇな、これは。
「それでは、あなたが良き魔法少女となられることを祈っています」
「ども」
軽く頭を下げて受付を後にする。
「助かりました」
「いえ、このくらいのことはなんでもありませんから。何か質問はありますか?」
「今は大丈夫……あ、一つだけ」
「なんでしょう」
「せい……じゃなかった。ブレイブブルーがどこにいるかわかりますか?」
「彼女ですか。そういえば連日ここを訪れているようですが……彼女ならおそらく黒の塔の方にいると思いますよ」
「やっぱり」
「……彼女とコンビを組んだんですか? 前回も一緒に行動していたようですし」
「コンビ……そういうわけじゃないんですけど」
「そうですか。ようやく彼女にも背を預けられる人ができたのかと思ったんですが」
「ブレイブブルーのこと知ってるんですか?」
「知っている……まぁそうですね。彼女が魔法少女になってから、この場所をよく利用していましたから。でも誰ともコンビを組もうとしなかったので。なので前回すごく驚いたんです。まさか彼女が他の誰かと一緒に依頼を受けるなんて思わなかったので」
「…………」
「やはり一人でできることにはどうしても限界がありますから。あなたが彼女のことを気にかけてくれるのは、個人的には嬉しく思います。あ、すみません。この後仕事があるので。それではまた」
「あ、はい。どうもでした」
そしてオレはそのまま去っていくセンリを見送るのだった。
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