第67話 怪人を探して

「ここが月喰山……」


 月喰山へと降り立ったオレは、ざっと周囲を見回す。空飛んで上から見てた時はわからなかったけど、思ったより木が高いな。

 鬱蒼と生い茂る木々のせいで、日の光も思ったより差し込んでない。だからというか、ずいぶん暗いな。真っ暗ってほどじゃねぇから大丈夫だろうが……こんな場所、隠れられたら見つけれるもんも見つけれねぇぞ。


「さて、それじゃあ探し始めるとしましょうか」

「探すって、何かあてでもあるの?」

「とりあえず昨日の魔法少女達が戦ったって場所に行きましょう。なにか手掛かりが見つかるかもしれないし」

「確かに。怪人の痕跡があれば見つけやすくなるかもしれないし」

 

 今回探してる怪人は狼型だったか。だったら体毛なんかを見つけれたらそれをもとに魔法で探せるかもしれねぇな。

 そうだ、ついでに探知の魔法でも使っとくか。こんだけ広いと全域は無理だが、周囲一帯くらいなら引っかかるかもしれねぇ。

 そう思って前に使ったことのある探知の魔法を起動したが……。


「あれ?」


 上手く発動しない。というか、発動はしてるけど……なんだこれ、めちゃくちゃな反応だ。

 探知の魔法は自分自身を中心に、怪人や人の位置を探る魔法。だから今はオレを中心にその隣にブレイブブルー、それとフュンフの反応があるのが正常なんだが……ブレイブブルーの反応があっちに行ったりこっちに行ったりしてるし、フュンフに至っては反応無しだ。

 もちろんブレイブブルーは隣にいるし、フュンフもオレの隣で呑気にふわふわ浮いてやがる。


「なにこれ……気持ち悪い……」

「あぁ、もしかして探知の魔法を使ったの? だったら止めといた方がいいわよ」

「え?」

「磁気なんかの影響でコンパスが正常に作動しなくなるのと同じように、この場所ではどういうわけか魔力による探知が正常に作動しない。だからこの山に潜んでるって言われてる怪人が見つけられないわけね」

「そういうことはもっと早く言ってよ!」


 なるほどな。探知の魔法が正常に作動しないから怪人共にとってもかっこうの隠れ場所になるってわけだ。これもフュンフの言ってたあるかもしれない魔力溜まりってやつのせいなのか?

 だとしたら迷惑過ぎんだろ。


「とりあえず、件の怪人と交戦したとされているのはもっと先の方よ。時間もないし、飛ばしていきましょう」

「うんっ!」


 そしてオレ達は、魔法少女と怪人が交戦した場所へと向かった。






 薄暗い山の中を駆ける。

 正直、あんまり足場は良いとは言えない。というかむしろ悪い。

 普通ならまともに走ることもできなさそうなくらいだ。でも魔法少女に変身している今なら大した苦労もなく走れる。

 木から木へと猿もびっくりなくらいの勢いと速度で飛び移りながら移動する。ぬかるんだ地面を魔法の力を使って瞬間的に固めて駆け抜ける。

 木が邪魔過ぎて飛ぶことはできねぇけど、それでもそんな芸当は容易くできるくらい魔法少女にも慣れてきた。

 この成長は喜ぶべきなのかどうか……微妙な所だな。

 だが、こうして移動してる間に改めてわかったこともある。

 それはブレイブブルーの魔法少女としての力量だ。


「…………」

「なに? どうかした?」

「ううん、別に」


 チラッと横目でブレイブブルーのことを見る。

 恐ろしいくらい無駄のない魔力の動き。余分な魔力なんか一切使ってない。必要最低限で最大の効果を出す。それをほとんど自然体で行ってる。

 もちろんオレとは魔法少女としての歴が違うってのもあるが、それでもオレ自身がこのレベルの魔力操作をできるのはいつになるのかわからない。

 あらためて、こいつ自身の目的がなんなのか気になるところだ。何か目的がなきゃここまで強くなるとは思えない。

 今回の一件に関してもそうだ。こいつには明らかに目的がある。まぁそれがなんなのか知るつもりもねぇが。知ったら知ったで余計に面倒なことになりそうだしな。


「そろそろ着くわ」

「っ」


 どうやら余計なことを考えてる間に目的地にたどり着いたらしい。

 でもなんだ? あの場所だけ妙に明るいと言うか……っ!?


「な、なにこれ……」

「これは……さすがに予想外ね」


 木々を抜けた先にあったのは十メートルは優に超えるクレーター。しかもそれがいくつもある。この部分だけはまるでくりぬかれたみたいだ。

 オレ達の想像を超えた破壊の痕が、そこには広がっていた。

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