第68話 エンカウント
「無数の破壊痕……これ、全部その怪人と魔法少女が?」
「……そうみたいね」
オレ達の目の前に広がる破壊の痕跡。いくつもあるその破壊の痕跡は点々と存在し、遠くの方にまで続いていた。
「ここが最終交戦地点ってこと?」
「様子を見る限りその可能性が高いわね。怪人とエンカウントしたのはもっと遠くの方みたいね」
「それにしたってこれは……いくらなんでも非常識すぎるというか」
目の前にあるのが一番大きなクレーターだが、オレがここまでの破壊を行おうとしたらそれなりの力を使う必要がある。少なくとも、ここまで大規模なことはそうそうできない。
しかし破壊の痕がここだけじゃないとなると……それだけで怪人の力量が薄っすらとわかるってもんだ。
「とにかく調べてみましょう」
「うん、そうだね」
いつまでも呆気にとられているわけにはいかない。オレとブレイブブルーは一番目立つ、大きな破壊痕のある場所へと降り立つ。
皮肉なことにと言うべきか、無理やり破壊されて木々がなぎ倒されてるせいで日の光は十分に差し込んでる。おかげで薄暗さもなくて、調べやすいと言えば調べやすい。
「でも調べるって……何を調べればいいの?」
「あなた……そんなことで本気で魔法少女としてやっていくつもりなの?」
「わ、悪い? 別に今まではそこまで真剣に調べる必要が無かっただけで……やろうと思えばできるから」
「やろうと思えばできるって。そんなの言い訳にもならないわ。ま、別にあなたに期待していたわけでもないけど。そこで見てなさい」
「ぐっ……」
ムカつくけど言い返せねぇ。確かにオレは調べるとかそういうのは苦手だ。正直面倒だからしなくていいならしたくない。
ブレイブブルーはクレーターの様子を確認すると、その中心へと向かう。
「このあたりなら……『アナライズ』」
「魔法?」
何かしらの魔法を発動したブレイブブルー。でも確かこのあたりは魔法が上手く使えないって話じゃなかったのか?
「使えない魔法は探知のような広域を探る魔法だけ。場所を限定すれば問題なく使えるわ。ごく狭い範囲ならね。このクレーター内部くらいなら使えるでしょう」
「へー、そうなんだ」
そう言われれば確かに普通に跳ぶのとかに魔力は使っても違和感なかったし。違和感があったのは『探知』の魔法を使った時だけだ。確かに使えるんだろうな。
ためしに手のひらに炎を生み出してみる。確かになんの問題もなく発動できてる。うん、これなら戦うことになっても大丈夫そうだ。
「……魔力を感じないわ」
手にしたスマホを眺めながら周辺を調べていたブレイブブルーが
「え?」
「この場所で感じるのは二つの魔力だけ。昨日襲われた魔法少女のものばかりよ」
「どういうこと?」
「……あなたもしかして知らないの?」
「だから何が?」
「呆れた……勉強不足なんて言葉じゃ足りないわよ。フュンフも何も教えてないわけ?」
「あはは、ごめんごめん。でもだってそれくらい常識だと思ってたからさ」
「私達の常識とあなた達妖精の常識は違う。それくらいわかるでしょ」
「あの、二人の口喧嘩はいいからさ。どういうことなのか教えてくれない?」
「……いい? 魔法少女も怪人も、基本的には魔力を使って戦う。それくらいはわかるわよね」
「まぁ、それくらいは」
「そして、指紋と同じように魔力には魔紋があるの。その魔紋をもとに照合することができるの」
「……あー、なるほど。そういうことか」
ようやくブレイブブルーの言わんとすることを理解できた。
つまりこいつは『アナライズ』の魔法を使ってこの場にある魔力の痕跡を調べて、見つけた痕跡を照合してたってわけだ。
「で、見つかった痕跡が魔法少女のものだけだったと」
「えぇ」
「……それの何がおかしいの?」
「…………」
あ、こいつ本気で馬鹿を見る目をしてやがる。いや、まぁわからないオレにも確かに原因はあるのかもしれねぇけど。
「はぁ、いいわ。今は時間も惜しいし。簡単に説明してあげる。この場で見つかったのは『アップルレッド』『レモンイエロー』。この二人の魔力の痕跡だけ。そして、その痕跡から読み取るに二人はそれほど大規模な魔法は発動してない。つまりこの破壊は怪人は行ったものってことになる。でも、この場に怪人の痕跡はない。魔紋照合に一致しない魔力があればそれが怪人のものになるはずなんだけど、それがないということは……今回の怪人はこれを純粋な力で行ったってことなのよ」
「え……そ、そんなことできるの?」
「あり得ない、と言いたいところだけど。前にあなたが戦ったクラカッティと同じように、魔力を使わなくても硬い怪人は存在する。だから別に不思議ではないわ」
「なるほど……」
「それでもこの力は少々予想外だけど……破壊痕を辿ってみましょう。最初にエンカウントしたポイントがわかるかもしれない」
「そうだね」
あらためて今回の怪人の強さを感じる。まだ実際に会ったわけじゃないからなんとも言えねぇけど、弱いってことはないんだろうな。
こうしている今も襲撃される可能性はあるわけだし、こっからはちょっと気合い入れていくか。
ブレイブブルーが調べ終えるのを待って、オレ達は魔法少女と怪人が最初にエンカウントしたである地点を目指して移動する。
点在するクレーターは大小様々だが、どれも戦闘の激しさを感じさせる。その痕を追うことで、オレ達は。
「ここみたいね」
「ここより向こう側にクレーターは無いし……結構上の方だね」
気付けば山をかなり上の方まで登って来ていた。
「ここがエンカウント地点。さっきと同じように調べて——」
「その必要はないな」
「「っっ!!」」
ゾゾゾッと背筋を貫く悪寒。本能が警鐘を鳴らし、オレとブレイブブルーはその場から飛び退く。
その次の瞬間のことだった。オレ達のはるか頭上から、目の前に巨大な影が降り立ったのは。
「なっ?!」
「これって!」
着地と同時に巻き上がった土煙が晴れる頃、その姿があらわになる。
「魔法少女のにおいだ……また獲物がやって来たか」
そこに立っていたのは、狼のような特徴を持った怪人。オレ達が捕まえに来た怪人だった。
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