第65話 借りを作るのも悪くない

 翌日、いつものように登校していると突然腕を引かれて建物の裏へと引きずりこまれた。

 オレを引きずりこんだのはやっぱりというか、青嵐寺だった。


「おいお前なぁ——」

「少し黙って」

「あ?」

「……誰もいないわね」


 周囲の様子を確認した青嵐寺は小さな声で何事かを呟く。するとその瞬間、青嵐寺が身に着けていた腕輪が光を放ち、何かが体を透過するような感覚。


「魔法使ったのか?」

「えぇ。人除けと認識阻害の魔法よ」

「なんでまたそんなことしてんだよ」

「ちょっと事情があってね。少し話したいことがあったの」

「話したいことだと?」

「はぁ、その様子だと朝に『魔法少女掲示板』開いてないのね」

「まぁな。そもそも毎朝確認はしてねぇし」

「なら確認するのを癖にしなさい。通知も切ってるの?」

「うざいからな」

「論外ね。フュンフ、そのあたりのことはちゃんと教えなさいよ」

「まぁそうなんだけど。私もどっちかっていうと晴輝寄りというか」

「……呆れてものを言えないわ」

「小言はいいからよ。それで、何があったんだよ」

「見なさい」


 そう言って青嵐寺はオレにスマホの画面を見せてくる。そこには『魔法少女二名、意識不明の重体。当該怪人の危険度をA+相当と認定』と書かれていた。


「なんだこれ」

「よく見なさい。この怪人、昨日私があなたに協力を要請した依頼なのよ」

「……あっ! マジじゃねぇか!」

「ようやく理解したのね」

「この怪人、そんなに危険なのか?」

「さぁね。ただ、今回負けた魔法少女はベテランというほどではないにせよ、あなたのような初心者じゃないわ」

「一言余計だろお前」

「今はどうでもいいでしょ。それよりも、想定以上の強さを持っていたのは確かだけど。問題はそこじゃないの」

「どういうことだ?」

「今回の一件を受けて、魔法少女統括協会がこの怪人を捕まえるための捕縛チームの編成を決定したの。これ以上魔法少女への被害を出すわけにはいかないって判断でしょうね。大き目の被害が出てようやく腰をあげるあたり、ずいぶん悠長な話だけど」

「まぁそれは確かにそう思うが。で、何焦ってんだよ。討伐チームが捕縛チームが編成されるならそれでいいじゃねぇか。まぁ稼ぎが無くなるのは痛いかもしれないけどな」

「それじゃダメなのよ」

「ダメ? なんでだよ」

「私が直接捕まえて、引き渡す前に情報を吐かせないといけないの。向こうに引き渡してからじゃ、私の方には情報が回ってこないから」

「?」


 そうまでして知りたいことがあるってのか? その知りたいことにこの怪人が関わってるってわけなんだろうが……。


「それで、オレに手伝えってか?」

「一応まだ依頼の受注自体はできるから。もちろん行くなら自己責任ということはなるけれど」

「なるほどな……」

「もちろん強制するつもりはないわ。もし嫌だと言うのであれば潔く諦めるわ」

「…………」


 さて、どうするか……。危険度の高い怪人の捕縛。昨日は金に釣られたけど、生かして捕らえることの難しさは知ってるつもりだ。相手も全力で抵抗してくる以上、相手の実力を大きく上回る必要がある。

 今のオレにそれができるかどうか……しかもチームを組むのは青嵐寺の奴だ。ろくに魔法少女同士の共闘をしたことないオレが、こいつと合うかどうか。


「なんて、細かいこと考える必要もねぇか。いいぜ協力してやるよ」

「え?」

「何驚いてんだよ」

「まさか本当に協力してくれるとは思わなかったから」

「お前の中で俺はどういう存在なんだよ」

「……本当にいいの?」

「まぁ。お前に借りを作るのも悪くねぇからな」

「そう。ありがとう。——それじゃあ、いきましょうか」

「は?」

「言ったでしょう。捕縛チームが編成されるって。もう時間的な猶予もないわ。怪人を探す時間もいる。学校になんて行ってる暇があるわけないでしょう——ブレイブチェンジ」


 呆気にとられるオレの前で青嵐寺はブレイブブルーへと変身する。

 そしてオレの腕を掴んで、そのまま高く空へと飛び上が——っておい!!


「お、お前。急に何してんだよ!」

「言ったでしょう。時間に余裕はないと。それじゃあ怪人の目撃情報があった地点まで飛ばしていくわよ」

「ふ、ふざけんなぁあああああああっっ!!」


 そんなオレの叫びはむなしく空へと吸い込まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る