第38話 魔法少女と警察
夕食後。ケーキを食った後に大量のチキンカツを食わされるという、腹に大ダメージを与えるコンボをくらったオレは、怪人と戦った疲れもあり、今日ばかりはさっさと部屋で休むことにした。
「はぁ……さすがに食い過ぎた……」
「ふふ、ずいぶんたくさん食べさせられてたわね」
鞄の中から出てきたフュンフがクスクスと笑って嫌みったらしい笑みを浮かべる。
思わず殴りたくなる笑みだ。感覚的には亮平を反射的に殴りたくなるのと近い。
「うっせぇ、黙ってろフュンフ」
「はいはい。ごめんなさいね。でも知らなかったわ。あんたがあそこまでシスコンだったなんて。なんとなくそうじゃないかと思ってたけど」
「あ? 誰がシスコンだよ」
「この場にいるのは私とあんただけ。だったらあんたに決まってるでしょ。あんたの妹の方も大概だと思うけど。ただの兄妹って言うにはずいぶんラブラブだったわねぇ」
「ラブラブとか言うな、キモイんだよ。別に兄妹だったら普通だろあれくらい」
「そうかしら? 珍しいと思うけどね。普通の兄妹はあんなに仲が良くないわ。それこそ顔を合わせれば罵り合い、殺し合う。それが普通の兄妹よ」
「いやそっちの方があり得ねぇだろ! どんな殺伐とした兄妹だよ!」
「? 違うの? 私のところはそうだったけど」
「全然ちげぇよ!」
こいつのキョトンとした顔……冗談じゃなくマジで言ってやがんのか。妖精の兄妹ってそれが普通なのか?
いや、こいつだけが特別なのかもしれねぇ……そう思うことにしとくか。それでも大概だけどな。
「なによ」
「別になんでもねぇよ。それより、根本的なこと聞いてもいいか?」
「根本的なこと?」
「魔法少女の敵ってのは、怪人なんだろ」
「えぇそうね」
「このアプリの掲示板とか依頼をざっと見た感じ、あるのは何かを探して欲しいって依頼と怪人の依頼だけだ」
「それが? 最初に見た時にも同じこと言ってたじゃない」
「あぁ、そうだ。あの時は特に疑問に思っちゃいなかったが、今さらになってちょっと気になったことがあってな。怪人の依頼が多いのはまぁわかる。でもよ、なんでそれ以外の犯罪者の依頼は何一つないんだ?」
当たり前の話だが、この世界で起きる犯罪は怪人が犯すものだけじゃねぇ。人が起こす犯罪だってもちろんある。むしろそっちの方が多いくらいだ。
それなのに、魔法少女は犯罪者を捕まえない。少なくともこのアプリを見る限りじゃそのたぐいの依頼は一つもない。盗人を捕まえてくれとか、そういう依頼はな。
だが考えりゃおかしい話だ。オレ自身も実感してるが、この魔法少女の力は強大だ。これだけの力がありゃ捕まえることなんて容易いはずだ。
魔法少女は怪人と戦うもの、そんな当たり前の価値観がオレの中にもあったってわけだ。
今の今まで疑問にも思わなかったからな。
「おかしいだろ。これだけの力があるんだ。犯罪者を捕まえるくらいどうとでもできるはずだ」
場の記憶を読む魔法、遠くを見通せる魔法、正直魔法少女はなんでもありだ。オレが今日使った探知の魔法みたいに工夫さえすりゃなんでもできんじゃねぇかってくらいに。
「それなのに、魔法少女が犯罪者を捕まえたなんて話はほとんど聞いたことがねぇ。表に出てないだけなのか、それとも何か別の理由があんのか。そこんとこどうなんだよ」
「そうねぇ……確かに晴輝の言う通りよ。あなた達魔法少女が本気を出せば……いいえ、本気を出さなかったとしても、人の犯罪者如き容易く捕まえられるでしょう。それこそ世を騒がせるような大犯罪者であってもね。でも、私達がそれを始めたら困る人たちがいるでしょう?」
「困る人? それは……なるほど、そういうことか」
「そう、わかりやすいのは警察ね。治安維持組織たる警察と魔法少女統括協会の役割は似てるわ。でも、持ってる力には大きな差がある。数の利というものはあるけど、それを補って余りあるだけの力を魔法少女は持ってる。もしそっちの方にまで手をだし始めたら彼らの立つ瀬がなくなるってわけ」
「……だから見過ごすってわけか」
「見過ごすわけじゃないわ。相互協力と言うべきかしら。警察は私達に怪人の情報を逐一寄こす。その代わり私達は必要以上に人間の犯罪に関与しない。あちらからの要請があれば話は別だし、目の前で起きた事件を無視するなとまでは言わないけどね。それでもある程度のところで一線を引いておかないと、組織が崩壊しかねないのよ。実際、それに近いことが起こった国もあるわ。イギリスなんかが良い例じゃないかしら。あの国は現状、魔法少女が政府まで支配してる。まさに魔法少女による魔法少女のための国。そうなってしまった。それが悪いことだとも言わないけどね。それだけの力があるのも事実。でも、見方を変えればそれは魔法少女による支配。極論だけど、それじゃあ世界を征服しようとしてるヴィラン組織と同じなのよ。実際にかの国の魔法少女達は政府を押さえる時に少なからず衝突はあったそうだから。あの一件があったからこそこの国では相互協力という形に落ち着いた。魔法少女をアイドルのように持ち上げ、多大な報酬を与えることでね」
「……はっ、なるほどな」
「不満?」
「別に不満じゃねぇよ。ただ疑問だっただけだ。オレは別に積極的に犯罪を解決したいわけでもねぇしな。ただ……それじゃやりきれねぇ奴もいるだろうなって思っただけだ」
「? まぁいいわ。それにどのみち、凶悪は犯罪者は染まり切れば怪人に堕ちる。そうなればこっちの仕事だから。警察で対処できるうちは警察で対処してもらいたいのよ」
「そりゃそうだ」
なるほどな。そういう理由だったわけだ。確かにある程度は納得した。
アプリを閉じベッドの端に投げる。
いよいよ睡魔が襲ってきやがった。明日からどうするか、ちゃんと考えておきたかったんだがな。
「ふぁ……」
風呂……は、明日の朝でいいか。
秋穂には怒られそうだが……あぁダメだ。いよいよまぶたが重くなってきやがった。
相当疲れがたまってたのか、突然襲ってきた睡魔に抗うことなどできるはずもなく。
気付けばオレは眠りへと落ちていた。
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