第39話 魔法の属性

 オレが魔法少女として活動することを決めてから、すでに一週間が経とうとしていた。

 あの怪人フレザードと戦った翌日からさっそく『ラブリィレッド』として活動しはじめたオレがこの一週間で捕まえた怪人の数は四人。まぁ、単純計算で二日に一回は怪人と戦ってたことになる。

 それ以外の日も一応探し物の依頼を受けたりはしてたんだが……まぁそっちの方は特に大した依頼があったわけでもなかったな。普通に失せモノ探しって感じだ。

 その過程でわかったのが、オレの魔法の応用範囲の広さだ。

 非常に認めたくない事実だが、オレの魔法の属性は【愛】らしい。属性が【愛】ってなんだよって感じだし、ずっと炎使って戦ってたから【炎】の魔法だとばっかり思ってたんだが……そういうわけでもないみたいだ。

 オレが戦いの最中に使ってたのは『炎想の愛ラブオブファイア』っていうらしいな。正直フュンフからその話を聞いた時は鳥肌がヤバイことになったし、やっぱ魔法少女辞めてやろうかとも思ったが……さすがにそれでやめるのは理由として最悪過ぎるからな。

 魔法の適性が嫌で辞めるってなんだよって話だ。皮肉なことにかなり使い勝手の良い便利な魔法だ。

 失せモノ探しの時も『愛の標ルートオブラブ』って魔法を利用して簡単に見つけることができた。

 色々探せばもっと便利な使い方を見つけられそうだ。

 フュンフに言わせれば器用貧乏って感じらしいけどな。オレの出す炎は炎に特化した魔法少女には及ばない。

 その辺りは別の使い方でカバーしていくしかねぇ。それに、炎に特化した魔法少女には劣るとか言っても、あのフレザードの吐く炎よりは強かったわけだからな。威力はあれで十分だろ。

 そして、肝心の怪人の方だが。捕まえたのはどれも手配されたばっかの怪人だけだった。

 まぁオレ自身がそういう怪人を選んだってのもあるんだが。どの怪人も大した強さじゃなかった。

 オレ自身が少しずつ戦い慣れて行ってたってものあるんだろうが、フレザード以下って感じだったし、あいつの所属してたっていう『ウバウンデス』とかいう組織の怪人もいなかった。

 そんなこんなで、思いのほか順調にオレの魔法少女としての活動は進んでいた。


「ふぁ……あー、ねみぃ」

「さっきから欠伸ばっかりね」

「仕方ねぇだろ。昨日は怪人追いかけてたら遠くまで行っちまって、そのせいで帰るのが遅くなったんだからな。おかげでまた秋穂に怒られる羽目になった」

「ふふ、烈火の如く怒ってたわね。ま、心配されるだけありがたいと思いなさい」

「んなこといちいち言われなくてもわかってる。ってかなんなんだよ下着泥棒の怪人って」


 昨日出没した怪人はやたらとすばしっこい奴で、その素早さを活かして女の下着を奪いまくるっていうわけのわからん怪人だった。

 欲望に忠実なのは怪人として当然みたいなところもあるが、それにしたって下着泥棒はねぇだろ。


「あの怪人はモテなさ過ぎて、女性に対する鬱屈とした思いを抱いた結果、その闇が膨れ上がって怪人へと変貌した例ね。まぁ人が怪人になるのはそう珍しいことでもないんだけど。まさかそれだけで怪人になるなんて、人の思いって怖いわねぇ」

「なんでそれで下着泥棒になるんだってオレは言いたいけどな。女を襲うだとか、怪我させるだとかそういうのは無かったんだろ?」

「そうみたいね。ま、その辺りは怪人の趣味嗜好だから。私達の関与することじゃないわよ」

「まぁそれもそうなんだがな。それにしても多くねぇか? オレがこの一週間で捕まえた四人の怪人のうち、三人が人から怪人になった奴だったんだろ?」

「確かにそのあたりは魔法少女統括協会としても気にしてるみたいだけど……今はなんとも言えないわね」

 

 人が怪人になる。それはこの世界に怪人が来てから起こるようになった事象で、どんな経緯があってそうなるかは人次第。珍しい話じゃねぇが、よくある話ってわけでもねぇ。

 それなのに、オレのそんなに広いわけじゃねぇ活動範囲の中であった怪人四人の内、三人が人から怪人になった奴ってのはそうそうあるもんじゃねぇ。

 確実になにかありそうだ。それが何かってことは全然わかんねぇけどな。面倒なことにならなきゃいいが……って、こんな活動してる時点で今さらか。


「まぁ、それにしてもトイフェルシュバルツがあなたに手出ししてきてないのは助かったんじゃない?」

「あぁ、確かにどうなることかと思ったが。今は別に何もされてねぇな。気まぐれって話だし、あの時だけだったんじゃねぇか?」

「だといいんだけど」

「不安になるようなこと言うんじゃねぇよ。ってか、そろそろ鞄の中入れ」

「はいはい。いつもこの辺であいつも来るもんね。今の私は視認できないからそこまで警戒しなくてもいいのに」

「うっせぇ、それでもだ」


 何度言ってもこのクソ妖精、もちうフュンフは勝手に鞄から出て話しかけてきやがる。だからそこに関してはもう諦めた。だがその代わり、亮平と合流しそうになる地点までって条件付きだ。それがオレの出せる限界の妥協案だった。

 ブツブツと文句を言いながらフュンフが鞄の中に潜り込む。


「これでいつあいつが来ても大丈夫だな。まぁ来なけりゃ一番いいんだが」


 オレがラブリィレッドの協力者ってことになって以降、あいつはオレから少しでもラブリィレッドの話を聞こうと毎朝登校時間を合わせてくるようになりやがった。

 正直かなりうざい。フュンフだけでもうざいのにその上亮平だ。うざさが天元突破してるレベルだ。


「あいつの魔法少女好きだけはなんとかならねぇもんか……」


 そんなことを考えながら歩いてたら、不意に曲がり角から人が出てきた。


「おっと、悪い。前見てなかっ——って、お前は……」

「……あら、奇遇ね」

 

 曲がり角から出てきたのは青嵐寺……現状、オレがもっとも会いたくない女だった。



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