第16話 苛立ちの理由
「~~~~~っ!」
夕方、家に戻って来たオレはどうしようもない苛立ちに襲われていた。
理由なんざ一つだけだ。怪人を捕まえた後に急に襲いかかって来やがったブレイブブルーとかいうあの魔法少女。
あいつのせいだ。
殺す勢いで襲いかかって来やがったくせに、勝手に納得して勝手に帰りやがった。
しかもこっちがやる気になったタイミングでだ。
こんなもん苛立つなって言う方が無理だろ!
「ふふ、ずいぶんイライラしてるわね」
「あったりまえだろうが! 誰のせいだと思ってんだ!」
「少なくとも私のせいじゃないわね。あの魔法少女……ブレイブブルーが原因でしょ?」
「そうだけどよぉ。あぁ、クソ」
この苛立ちをどこにぶつけりゃいいんだ。
無駄な喧嘩はしねぇって妹達とも約束してるせいで下手に外でて喧嘩売るわけにもいかねぇし。
このクソ妖精殴れたら一番ストレス発散できそうなんだが……それができるとも思えねぇしな。
「まぁ少しは落ち着きなさいな。そんなイライラしててもしょうがないでしょう」
「ちっ……」
このクソ妖精に言い負かされるのも癪だが、確かに言う通りだ。
イライラしててもしょうがねぇのは俺だってわかってる。こんな態度のまま下に降りてもチビ共をビビらせるだけだしな。
そんなことしたら俺が妹にキレられる。それだけはごめんだ。
「まぁ、あなたの苛立ちを解消する方法なら一つ提示できるわよ」
「あ? なんだと」
「興味ある?」
「…………」
あるか無いかで聞かれりゃ、あるに決まってる。だが、それをこいつから聞くのが癪だ。
こいつに借りを作るような真似はしたくねぇ。まぁ、そもそもこいつに無理やり魔法少女にされるようなことがなけりゃこんなことにもなってないと思うと、それはそれで苛立つけどな。
「その様子だと気になってるみたいね。なら教えてあげましょうか? その方法を」
「……まぁ、聞くだけ聞いてやるよ」
「簡単よ。魔法少女として名を挙げればいいのよ!」
「……はぁ? いや意味わかんねぇよ。なんでそうなんだ」
「決まってるでしょ。あなたのその苛立ちはあの魔法少女を見返してこそ晴らされるものだわ。あの魔法少女は、あなたのことを魔法少女として相応しくないと言っていた。だったら、その言葉を撤回したくなるほどの目覚ましい活躍を見せればいいのよ!」
これ以上ない名案とばかりに胸を張るクソ妖精。
いや、この場合は名案ってよりは迷案か。
「何よその顔は」
「あきれ果てて物も言えねぇって顔だよ」
「あら、どうして? 私変なことは言ってないでしょ」
「言ってるだろうが! もう魔法少女には変身しねぇって言ってんのに、なんで魔法少女として名を挙げることになんだよ!」
「じゃあこのまま言われっぱなしでいいのね、あなたは」
「そういうこと言ってんじゃねぇだろうが!」
「同じことじゃない。あの魔法少女を見返すためにはどうするべきか、あなたならわかってないはずがないでしょう?」
「っ……だからってなぁ」
「それに、もう魔法少女には変身しないなんて言ってるけど、もう忘れたの? 魔法少女統括協会にはノルマがあるってことを」
「っ、それは……」
もちろん忘れたわけじゃねぇ。
だが、その件があっても魔法少女に変身するのは嫌なんだ。
だから魔法少女に変身しなくても済むような依頼をだけを見つくろってノルマこなそうと思ってたんだが。
「はぁ、あのねぇ。あなたの考えてそうなことはなんとなくわかったけど、それは無理に決まってるでしょ」
「なんでだよ。普通のお使いみたいな依頼だってあるんだろうが」
チラッと目を通した時、猫を探して欲しいだのなんだの、魔法少女の力がなくてもなんとかなりそうな依頼が多かった。
「魔法少女に対して送られた依頼だってことを忘れるんじゃないわよ。一筋縄でいくわけないでしょ。それになにより、そんな簡単な依頼は他の魔法少女も目を付ける。簡単にこなせる依頼だもの。いくらあなたが優秀だったとしても、変身した魔法少女には及ばない。そんなことわかりきってるでしょ」
「…………」
確かにこいつの言うことももっともだ。
そんでもちろん、そんなことは俺だってわかってる。
それでもなんとかやるしかねぇと思ってたんだが……。
「諦めなさい。人生は諦めが大事な瞬間もあるのよ。あなたの場合は、魔法少女に変身しないという無駄なプライドを捨ててしまいなさい。わかってるでしょう? 魔法少女の力がどれだけ素晴らしいものかは」
「…………」
クソ妖精の言うことはわかる。だが、それに納得できるかっていうと別の話だ。
オレは魔法少女が嫌いだ。誰がなんと言おうと、世間でどれだけ認められてようとな。
そのスタンスはオレが魔法少女になった今でも変わらない……いや、むしろより強くなったって言っても過言じゃねぇ。
このクソ妖精のせいでな。
だが……その力だけは認めないわけにはいかねぇ。
今の世界が魔法少女に救われてんのも事実なんだろうがな。それでもオレだけは魔法少女を認めるわけにはいかねぇんだ。
「はぁ、あなたも大概強情ねぇ」
「……ふんっ」
「あなたが魔法少女に対してどんな考えを持っていたとしても、あなたはすでに二度魔法少女に変身してしまった。そして、あなたには逃れられないノルマもある。その強情さがいつまで持つか、楽しみにさせてもらうわ」
「黙ってろ」
クソ妖精に何も言い返せないことにさらにどうしようもない苛立ちを抱えたまま、オレは右腕に嵌ったままの真紅の腕輪に目を落とす。
魔法少女に変身し続けるかどうか……心情は別として、そろそろ決めなけりゃいけねぇんだろうな。
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