第15話 登場、新たな魔法少女ブレイブブルー

「ブレイブブルー?」


 いや、誰だよって話なんだが……この状況、完全にオレの敵と見て間違いねぇよな。

 オレにぶち当ててきた殺気といい……この今にも射殺さんばかりに目つき。どこでどんな恨み買ったか知らねぇがな。

 まぁ知らねぇ奴から恨み買うなんていつものことだが……さすがに魔法少女の恨み買うような真似はした覚えがないんだがなぁ。

 逃げれそうにもねぇしな。どうしたもんか。

 この女から感じた肌を突き刺すような殺気。そんじょそこらの不良なんか目じゃねぇくらいだ。

 

「ずいぶん敵意丸出しだけど、私になんの用?」

「……あなたは魔法少女に相応しくない」

「?」


 どういうことだ?

 オレが魔法少女に相応しくないって、んなことオレが一番よくわかってるっての。

 オレが聞きてぇのはそういうことじゃなくてなんでオレを襲ってくんのかってことなんだが。

 ちっ……どうやらそれに答える気はねぇみたいだな。


「ちょー逃げたい」

「逃げればいいんじゃない? それをあの魔法少女が許してくれるとは思えないけど」

「だよねぇ」


 背中を見せた瞬間に斬られる。そんな予感がビンビンしてる。

 つまりここでこいつの相手をするしかねぇってことだ。幸いというか、不幸にもというべきか、住宅街からは離れてる。

 あんまり気にしてなかったが、あの怪人を追ってる間にずいぶん遠くまで来ちまったみたいだな。

 ここなら遠慮なく暴れられるってか?

 だったらいいぜ、タイマン張ってやるよ。

 魔法少女の姿だろうがなんだろうが変わらねぇ。


「さぁ、受けきれるものなら受けきってみなさい」

「っ!」


 速い!


「でもっ……そこっ!」


 最初の一撃で速さについてはなんとなく掴んだ。

 後はこの強化された肉体がありゃある程度は反応できる。

 その澄ました面蹴り飛ばしてやる!


「はぁっ!」

「っ!?」


 変身してなけりゃ一方的になぶられるだけだろうが、不本意とはいえこっちも変身してんだ。条件は対等。

 だったら相手がどんな獲物持ってようがオレが負けるわけねぇだろうが!

 迫って来る剣先を身を屈めて避け、お返しとばかりに蹴りを繰り出す。

 確実に当たる距離——だが、


「えぇっ!?」


 女の体に蹴りが当たったとおもったら、その蹴りがそのまま体を突き抜ける……いや、ちげぇ! これは体をすり抜けやがったのか!


「それは魔法で作った分身。反応速度は悪くないけど、まだ甘い」

「っぅ!」


 その声は後ろから聞こえた。今からじゃ身を捻って避けるのも間に合わねぇ。

 くそ、マジかこいつ!

 そのその次の瞬間、全身を貫くとんでもない衝撃。

 今のは絶対捉えたと思ったのによぉ。

 分身まで作れるとか魔法ってなんでもありかよ。聞いてねぇぞそんなの。


「ゴホッゴホッ……いったぁ……」


 斬られたわけじゃない。だが全身を貫いた衝撃は本物だ。

 これ、生身だったら完全に骨折れてるな。そう考えるとこの体もなかなかすげぇっていうか。


「魔法少女のくせに魔法を使わないなんて、あなたバカなのね」

「むっ……」


 明らかな嘲笑。別に魔法使えないくらい気にしねぇけど、それでこいつにバカにされるのはちょっと腹が立つ。

 だいたいこっちは魔法少女に変身するの二回目だぞ。どんな魔法が使えるとか、そんなのわかるわけねぇだろうが。

 あぁイラつくなぁこいつ。

 絶対にぶっ飛ばす!

 使えばいいんだろうが魔法を!


「燃え盛れ!」


 オレの怒りに呼応するように、炎が巻き上がる。

 魔法の使い方がわからねぇならわからないなりに、オレのやり方で戦うだけだ。

 この炎の使い方だけはわかるからな。こいつを最大限利用してやってやる。


「っ……なんて熱量。一体どれだけの魔力を注ぎ込んでるっていうの」

「今度はこっちから攻めさせてもらう! はぁあああああっっ!!」


 この炎を衣みてぇに纏ってたらあいつも容易には近づけねぇはずだ。

 その間にこっちはひたすら攻め続ける!


「くっ、でもそれだけの炎、いつまでも持つはずがない!」

「そっちの常識で私を語らないで!」


 いつまでも持つはずがないだと?

 まぁ確かにそうだろうな。この炎だって今の威力を保ち続けようとしたらせいぜい二、三時間くらいしか持たないだろう。

 だがそれで十分だ。その剣ごと焼き切ってやる!


「炎よ! 絡めとれ!」

「っ!」


 この炎はある程度オレの意思で自由に動かせる。

 炎の力を利用した加速も、今みたいに全身に纏って盾にすることも。

 こうやってお前の動きを止めることだってできんだよ!


「——はぁっ!!」

「んなぁっ!? 剣で炎を斬った!?」


 ありえねぇだろ、剣で炎斬るとかどういう理屈だよ!

 って、呆けてる場合じゃねぇ!


「『ファイアボール』!!」

「ふっ!」


 オレの放った五連族のファイアボールも呆気なく剣で切り飛ばされる。

 剣は刃こぼれしてる様子もねぇ。いや、違う。あの剣……水を纏ってやがる!

 目を凝らして気付いた。剣の表面に薄く水の膜が張ってることに。だからオレの炎の効きが悪いのか。

 ってか、水と炎とか相性最悪じゃねぇか!


「せぁっ!」

「っ!」


 迫ってきた剣を杖で受け止める。咄嗟に出しただけだったが、杖はオレの思ってた以上に硬く、甲高い音を立てて剣を受け止めた。

 なるほど魔法少女の杖ってだけあって強度もそれなりみてぇだな。これならまだまだ打ち合えるか。

 こいつがどうやって炎を受け止めてるかはわかった。

 いいぜ、やってやるよ。とことんどこまでもなぁ。


「さぁ、どんどん行く——」

「もういいわ」

「……はい?」

「あなたの魔法少女としての力量はわかった。これ以上は無意味だもの」

「え、いや、そうじゃなくて」

「魔力は大したものかもしれないけど、その程度の実力ならこの先は生きていけない。いつか思い知ることになるでしょうね」

「だ、だからこっちの話を聞いて……」


 こっちの言い分になどまるで耳を貸さず、一方的に言いきられる。

 そして——。


「やっぱりあなたは魔法少女に相応しくない。それが私の結論よ」


 最後にそれだけ言って、まるで魔法のように……いや、事実魔法を使ったんだろうけど、その場から姿を消す。

 現れた時と同じように、忽然と……。


「…………」


 え、いや、おい。なんだよこれ。

 せっかくちょっとやる気になって来たってのに。

 こんな不完全燃焼で終わりだと?


「も……戻ってこぉおおおおおいいっっ!!」


 やり場のない苛立ちを込めたオレの叫びは、むなしく空へと吸い込まれていくのだった。

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