11th 味をしめたやつのカルマ

「実は、他のファンでひとりだけ――楽曲をフルコンプリートできたって言ってる人もいるみたいなんですよ」

と水田さんは言った。


「へぇ。どこにでも強いファンっているものですよね」


「SNSのハンドルネームは『カルマ』さんって方なんですけど、めちゃくちゃ楽曲の解説ブログとかを書いてる方で、いろんな楽曲について長文を書いてるんですよ。わたし、それを読んでようやく歌詞の意味がわかった……っていうような作品もけっこうあって」


「……ファンの解説に意味ってあるんでしょうか?」


ぼくは聞いた。


「だって、それってその人の解釈にすぎないわけじゃないですか。本来は幅広い解釈を持ってもらうために、ぼかして書いているような部分があったとしても、誰かがそうやって『これはこういう意味じゃないか』って解釈してしまって、その解釈が広まってしまうと、本来の楽曲の良さが損なわれてしまう気がしませんか?」


「ううん……たしかに、そういう考えもあるのかもしれません」


「世の中には創作者クリエイター消費者ファンも必要だけど、評論家レビュワーって必要あるんでしょうか?」


「それが嫌味な評論家レビュワーだったら必要ないと思います。ていうか、必要か必要じゃないか、なんて、気にしなくてもいいんじゃないですか?」


「……気にしない?」


「そこにはグラデーションがあると思うんです。その線引きってすごく難しい。感想、考察、解釈、評論、二次創作にいたるまで、ひっくるめて、おしなべて、表現というものは、境界線がすごくあいまいなんですよ。あなたは、感想ですら否定しますか?」


「それは…………」


「どんなかたちであってもいいんですよ。でもね、ひとつだけ、絶対にまもらなければいけないルールはあります」


「ルール、ですか」


「それは、ラブ尊敬リスペクトです。愛のない振る舞いや、尊敬のない振る舞いだけは、どんな立場の人でも許されることではない、とわたしは思います」


水田さんは遠い目をしてそう言った。


ぼくは思わずこうツッコんだ。


「愛と尊敬があっても、やっぱり不法侵入は許されないと思いますけどね……」

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