6 貴族の子どもは貴族。ではない

我々が通された応接室は、ここまで見た邸内の質実剛健さに比して豪華な作りになっていた。

これは当主殿の人柄を表しているのだろうか。


「さて、愚息から話を聞いているかと思うが、現在この辺りでは魔物被害が頻発している。ついては諸君らにもその駆除に付き合ってもらいたいと思っている。それでも当家に宿泊し、礼をというならば受けよう」


早速、本題から入ってきたな。

対面の大きなソファにゆったりと座ったカスパル殿から切り出してくる。

その目は変わらずこちらを観察するような風情だ。


「えぇ、カールからもその話は聞いています。しかし騎士団の作戦に我々のような学生が、参加してもよろしいのでしょうか?」

「騎士団では諸君らと同じ年頃の新兵が働いている。訓練量を差し引いても学院で学ぶエリートである諸君らであれば問題はないと判断した」


部外者が立ち入ることについてはどうなのだろうかと思ったが、この世界ではまだまだ属人的な組織が大勢を占めている。

騎士団長が白といえば黒が白になってもおかしくはない。

冒険者として魔物退治に参加するかと思っていたが、騎士団の作戦に参加することができるのであれば、そちらの方が安全かつ快適であるのは疑うべくもない。


「そういうことであれば、参加させていただきたく存じます。騎士団の作戦行動に参加させていただくという得難い機会をいただけるのであれば、礼も申し上げようというものです」


返答に満足したのか、笑顔で手を差し出してくるカスパル殿。

その手を握り返しこちらも笑顔を返す。


「詳細については追って伝えよう。まずはゆるりと旅の疲れを癒やしたまえ」


そう言って執事を連れ応接室を出ていく。

そして扉が閉まるのを待って、今まで黙って会話を聞いていた面々が声をかけてくる。


「なんか、悪いなうちの親父が」

「ちょーっと態度悪いよね?」

「騎士団と一緒にって、大丈夫かなあ」

「そうか、おもしろい御仁だと思うが?」


とりあえず、いつでも出立できる準備だけはしておこう。

彼の場合、今夜いきなり出発するぞと言い出してもおかしくない。


しかしこの魔物被害の増加って、おそらくあのイベントだよな。

ボクは前世のゲームを思い出す。

乙女ゲームとしてはプレイしていなかったが、リアルタイム戦略ゲームとしてはそれなりにやっていた。


そもそもの前提として、あのゲームにははっきりとしたストーリーはない。

ただ、同じ世界、同じ人物がいる特定の時間軸の話であるので、ある程度はキャラのルートと言えるものもあった。

あのゲームとこの世界がどの程度リンクしているのかはわからないが、もし完全に同じなのであれば、この魔物被害には裏がある。


「さて、まずは準備をしておこう。もし今夜出発と言われても良いようにね」

「今夜!?」

「どうなるかはわからないが、準備をせずに突然言われるよりは、準備をしておいて猶予があると言われた方が良いいだろう?」


それから各人に割り当てられた客室に移動し、荷解きと作戦の準備を進めていたところ、出発は2日後の早朝と伝えられた。

最低限の装備は準備してきたが、これで細かい装備を追加できるな。

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