毒を混ぜても気付かれない食べ物って?

七寒六温

第1話

「毒を混ぜても気付かれない食べ物って何か分かる?」

夕飯を食べ終えた後に、妻からいきなりそんなことを言われた。


「毒を混ぜてもって変なことを言うなよ」

「まさか、俺のことを殺そうとしてるんじゃないだろうな? 不満があるなら直接言ってくれよ」

俺は妻に恨まれているかどうか心当たりはある。3年前に1度浮気がバレ、こっぴどく叱られた。3年前の浮気はもう時効だ。そう考えるのは俺だけで、妻はそう思っていないのかも知れない。


「毒って、やっぱりスパイスとかで誤魔化せるからカレーとかじゃない? 考えたことなかったから分かんないけど」


「違うよ、グラタンよ……」


「はっ? グラタン?」

今夜の夕飯は、ドリアだった。ドリアは、毒が入っているような味はなく、普通に美味しかった。それにドリアは妻も食べた。


それでも、動揺を隠せない俺の表情を見て、妻が一言続ける。

「あなたが食べたのは、ドリアであって、グラタンではないわよ」


「ドリアじゃダメなのか?」

「グラタンが気付かれないなら、ドリアも気付かれなさそうだけど。ほぼ同じだし」


「ダメなのよ、ドリアはご飯が入っているから。グラタンのように、ご飯が入っていないのが、都合がいいんじゃない」


「じゃあ、あのドリアには毒は入っていないと?」


「毒?」

「私はドリアには入れないわよ、現にあなた異常ないでしょ?」

現在、俺の体に異常は無い。だが安心はできない、遅効性の毒の可能性もある。俺は毒物に詳しくない、知識がないから、毒を口に含んだすぐに効果が現れるのが、4時間ほど経って効果が現れるのか分からない。


「じゃあさ、何で、グラタンだと気付かれないと思う?」


「えっ? チーズの匂いで誤魔化せるとか? 」


「残念ながら違うよ。チーズならピザでもチーズケーキでもいいじゃない。それに、チーズより香りの強いモノは他にもあるけど」


「まあ、それもそうか……」

会話は続けなければと思いつつも、気が気ではない。自分が毒殺されるかも知れないからだ。妻の話し方がリアル殺人鬼のようで、冗談を話すトーンではない。キツネ顔の妻がいつも以上にキツネに見える。


毒殺されたら、妻は捕まるのだろうか?

妻のことだから用意周到に準備して、自分は自殺として処理されるのだろうか?


「というか妻の目的は何だ?」

俺のことを、「あなたをいつでも毒殺できるのよ」と脅しているのか? これを気に俺に何か頼み事をしようとしているのか? ただミステリー小説にはまっただけなのか?

俺にはその理由が分からなかった。


「なぜ、グラタンなら気付かれないのかは、分からないみたいね……」

「理由は教えてあげないわ、あなたが考えて答えを見つけるのよ!」

妻は答えを教えてはくれなかった。俺が思うに、理由は、食べ物的要因ではない。重要なのはグラタンなら何故ではなく、何故グラタンの方が大事だと思う。彼女の言い方から察するに、極端な話、グラタンではなくペペロンチーノになる可能性もあったし、牛丼になる可能性もあったと思う。答えをグラタンにした理由を探すべきだ。

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