しゃべる兎と私

Yuu

第1話 しゃべるうさぎはレジ打ちをしていた

 いつも通り、仕事を終え半額になった弁当とチューハイを手に取りレジへ向かう。毎週金曜日恒例の自分へのご褒美だ。そしていつも同じレジ、手前から二番目のレジ。金曜日の九時はいつも大学生の女の子がそのレジにいる。…名前は確か東雲和葉ちゃんだったかな?


 「今日は華金〜♪ 華の金曜日〜♪」

 鼻歌混じりにいつものレジへ向かう。


 「いらっしゃいませ」


 やけに野太い声が返ってきた。あれ? レジ間違えたかな? いやいや、今日は金曜日の夜九時! 決まって東雲和葉ちゃんがこのレジの番をしているはず! でも返ってきたのは野太い声…だ…った。

 顔を上げレジ打ちをする店員の顔を見る。

 

 そこにいたのは私たちと同じぐらいの身長の『うさぎ』だった。

 え? う、うさぎ? 今日ってハロウイーンじゃなかったよね? 仕事のしすぎで幻覚でも見てるのかな? あまりの衝撃にそのうさぎをマジマジと見た。


 「あの、お客様? ど、どうかされましたか?」

 私に話しかけてくるうさぎ。私の耳にはうさぎの声は右から左へと通り過ぎるだけ。残ったのは野太い声と合わないフォルム。

 何故、うさぎがレジ打ちをしているのか。そんな疑問すら感がてしまう程、うさぎを凝視していた。


 「お客様? そんなに見つめられると困りますよ。あ、2点で400円です。お支払いはPAYPAYでよろしいですか?」

 うさぎは、まるでいつも私が何を買い、何で決済するか知っているように会計を進める。


 ペイペイ♪


 「ありがとうございました」


 頭を下げ丁寧な接客をするうさぎ。うさぎの見過ぎなのか凝視することをやめてしまっていた。

  弁当とチューハイが入ったレジ袋を持ってスーパーを出ようとしたところで、強面の男性二名に止められた。


 

 「少し、お話よろしいですか?」

 「え? 何ですか? 私これから家に帰るんですけど」

 「お客様に大事なお話がありまして…。ここでは何ですから、奥のスタッフルームへ来ていただいてもよろしいでしょうか?」



 万引きもしていないのに、バックヤードまで来いとは何事かと不思議に思いつつも、強面の男性二名が相手では、私も渋々ついていくしかない。


 バックヤードは入り口すぐ左にある野菜コーナーを少し奥に行ったお肉コーナー手間の扉だった。


 扉には目立つように『関係者以外立ち入り禁止‼︎』と書かれている。

 つまり、余程のことがない限りこの扉をくぐれるのは従業員だけと言うことになる。そして、私はこの扉を通過した。今日の私に余程のことがあったのだろうか。いささかうさぎしか記憶にない。どんな弁当を選んだのかさえもうさぎのインパクトに負け記憶から追い出されてしまっているようだ。


 立ち入り禁止の扉を潜ると、生魚や肉の匂いが私を襲ってきた。新鮮な魚や肉たちがここでパックに入れられ商品棚へと出されていたんだ。もう夜九時で魚も肉もないけど。


 薄暗い廊下を進んでいくと右手に事務所らしき場所が見えてきた。何だか裏側潜入みたいでワクワクする。このテンションは金曜日だからなのかはわからないけど、湧き上がるこの高揚感は私を笑顔にする。


 「こちらにお掛けください。チーフを呼んでまいります」

 そう言って強面の男性二名はどこかへと消えていった。


 初めて入る場所に入ると妙にキョロキョロしてしまうが、これは不安からくる行動なんだとか…。テレビの事だし本当かわからないけど、今の私に不安なんてものはないがキョロキョロと何が置いてあるなど見てしまう。

 机の上にアニメキャラクターらしきフィギュアが置いてある。それに人参も。…ん? 人参。キョロキョロしている中で見つけた人参。その人参を見た瞬間、レジ打ちをしていたうさぎを思い出してしまった。

 もしかして、あのうさぎの持ち物なのか? やっぱりあいつは人間ではなくうさぎなのか? 実は私たち人間が知らないだけで、そういう宇宙的侵略が徐々に進んでいるとか? いやいや、それは流石にないか。


 「あー、お待たせしてすみません。私チーフの湖山と申します」

 事務所の中に入ってきたチーフと名乗る湖山と言う男。何やら雰囲気が堂々としており、さすがチーフ! と言ってしまいたくなるような佇まいだ。



 「いえ、全然まってないですよ。それはそうと大事なお話って何でしょうか? 早く帰りたいんですよね」

 「申し訳ありません。では本題に入りますね」



 湖山は手に持っていた書類と思わしき束を机の上に置き、私をじっと見つめる。

 


 「率直に申し上げます。レジの東雲に何か不手際がありましたでしょうか?」

 「東雲? 東雲和葉さんの事ですか?」

 「はい。そうです。先ほど当店バイトの東雲がレジ打ちを担当していたかと思いますが…」

 「え? ん? んんん〜…」



 湖山には悪いが、私のレジ打ちをしたのは東雲和葉ちゃんではなく、野太い声の変なうさぎだ。これは絶対に見間違えない。でも、湖山はうさぎの事を言っているような気がするな。何とかして解明したいが…。



 「あのー…今日レジ打ちしてもらったのは野太いうさぎでしたけど…」

 「はい? あなたは何をおっしゃっているのでしょうか?」

 「いや、私も信じられないんですけど! 確かにレジ打ちをしていたのは野太い声のうさぎだったんです。しかも二足歩行してるし、びっくりしてしまいましたよ!」



 私は声を大きくして、小山の質問に答えた。

 はぁ〜と大きくため息を吐く湖山。左手で額を抑え何かを悩んでいるようだ。しばらく沈黙が続いた後、湖山が私の目を見つめて言った。



 「改めて確認です。あなたには東雲和葉がうさぎに見えた…と言うことでよろしいでしょうか?」

 「あのうさぎが本当に東雲和葉ちゃん何ですか? 仮にそうだとしたらうさぎに見えたと言う事になりますね!」

 「わかりました…」



『おめでとうございまぁす‼︎』

 パン‼︎ パン‼︎


 突然クラッカーが私を襲った。

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