第8話 冬

冬。

待ち合わせ場所。

なぜか、彼女と元彼女が、議論を始めた。


「わたしを抱けるか抱けないか。それだけです」


「だから。なんで私があなたとセックスしないといけないんですか。おかしいですよね。見ず知らずのあなたと」


「答えはイエスかノーでお願いします」


「だからなんでそんなことを」


「重要なことなんです。とても。とても重要なことなんです」


元彼女が、執拗に食い下がる。


「おねがいします。答えだけでも」


頭を下げた。


「はあ」


彼女の、ため息。


「スリーサイズ。教えてください」


元彼女が、スリーサイズを述べる。


「ちょっと触っていいですか?」


彼女が、元彼女のスカートの中に手を突っ込む。ちょっとして、手を戻す。びしょびしょに濡れていた。

その手の、濡らしている液体の匂いを確認して、舐めている。


「たぶん、大丈夫、だと思います。抱けます」


「そうですか。ありがとうございます」


「これの何が」


「わたしは。彼のことが好きです」


「はい。知っています。だからわたしは」


「あなたのことも。わたしは、好きになれます」


「は?」


「ふたりとも。わたしは、愛せます」


「何言ってるんですか?」


「彼を引き裂くような真似は、わたしは、できません」


彼女が。元彼女をひっぱたいた。頬に平手の入る音はせず、ぬるっと頬をかすめただけ。さっきの濡れた液体のせいで、手がぬめぬめしているらしい。


「ばかいわないでください。私は」


「彼のことが好きなんですよね」


「でも、彼はあなたのことが」


「だったら、ふたりで愛せばいい」


彼女が、もう一回ひっぱたいた。やっぱり、頬をぬるっと掠めるだけ。


「あなたは何もわかってません。なぜ別れたのか。あなたは分かってない」


「いえ。分かっています。今なら。彼を、愛さなかった。自分が恋というステータスだけを求めて、彼自身を見ていなかったから」


「そんなのは御託ごたくです。あなたは彼とセックスしなかった。彼の要求を満たしてあげなかった。それだけです」


「う」


「こんなにもあなたを抱きたがっていたのに、あなたはそれを無視した。そんなあなたが、何を今更」


「今は。今なら。抱けます」


「おい。どういう話を」


「あなたは黙ってて」


「少し黙っててください」


ふたりから同時に言われては、もう、どうしようもなかった。


「じゃあ。あなたがちゃんとセックスできるかどうか。見させてもらいますね」


「はい。よろこんで」


「ここには、彼がいます。先週あなたに連絡してから、一週間。彼には、あなたを抱くために、ぎりぎりまでがまんしてもらっています」


「え」


「行きましょう。ホテルに。まず私を抱いて、その上で彼を抱いてください。それが確かめられたら、私も考えましょう」


「わ、分かりました。行きましょう。ふたりとも。わたしが抱いてみせます」

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