俺、モテたいからギターやる!!

@asadarumadesu

第1話:俺!モテたいからギターやる!

「母さん!俺!モテたいからギターやる!」



それは俺が中学3年生の冬だった



「何言ってんのよ、もう時期受験よ?」



元々、アニメやゲームが好きな俺はいわゆるオタクと言われるやつでモテる、なんて事からは遠く及ばない存在だった



「本気なんだ!!」




「本気って、あんたね、そんな不純な同期で続く分けないでしょ?やめなさいよもう」




モテたい、と言っても大勢からキャッキャウフフな黄色い声援を受けたいわけではない、俺には好きな人ができたのだ




「やーりーたーいー!おかーさんやりたーい!」




「やめなさい!中学3年にもなってだだこねるのは!そんな事より今は勉強しなさい!」




その好きな人とは、容姿端麗、学業優秀、いわゆる非の打ち所のない学園のマドンナだ、だが俺が今のままどう背伸びしたところで玉砕される訳で、しかし諦められなかった、そして俺はある一つの希望が芽生えたのだ、俺の好きな人、櫻井紅音サクライアカネは、洋楽ヒットチャートを総なめにしている大人気バンドのファンなのだ




「母さん!じゃあ俺、本気で勉強するから、そしたら俺のやりたい事、認めてくれるか?!」




「もう、受かれば何でもいいわよ」




ヨシ!!また一つ櫻井さんに近付けた!!けど、まだギターも持ってないし、どうしたらいいんだ?




「母さん、うちにギターってないの?ほら、昔に父さんが使ってたとかないとかさ?」




「知りませんよ、帰ってきたらお父さんに聞いてみなさい?それよりも勉強!!!」




確かに、今はギター弾くよりも勉強しないとな、もちろん俺の志望校は櫻井さんの第一志望と同じ、その辺は抜かりない。




「ガチャッ」




俺が母に言われた通り勉強をしていると、玄関の扉が開く音がした、父が帰ってきたのだ




「父さん!ギター持ってないの?!」




圭佑けいすけいきなりどうした?父さんは今帰ってきたばかりなんだぞ??」




酔っ払ってる、酒臭い・・・・。




「父さんて昔ギターやってたんでしょ?!その時使ってたギターとか残ってないの?!」




「ん?ギター?それより風呂だ風呂、」




結構熱心にギターやってたって聞いたけど、そんな事なかったのかな?とりあえず父さんが風呂から出たらまた聞こう




「あっちぃ〜!いい湯だったな〜」




「父さん!さっきの話の続き!」




俺は先ほどと同様、父に詰め寄った




「ギターやりたいだ?お前な、そんなことに時間費やすよりまず勉強して、いい高校、いい大学に行って立派な大人を目指すんだよ」



「でも!どうしてもやりたいんだ!」




俺は父から目を逸らさず、熱心に気持ちを伝えたつもりだった




「ダメだダメ、お前どうせ女にモテたいとかだろ?そんな理由で続くわけねーんだから」




母と同じ事を言われてしまった....。




「チッ!なんだよ父さん、自分だってどうせ同じような理由でギターやってたくせに!!」




俺は自室に戻り、愚痴を垂れていた、するとすぐにドアがノックされ、そのドアが少しだけ開かれた




「圭佑、あとで俺の部屋に来い、母さんが寝たらだぞ?いいな??」




その声は父のものだった、ヒソヒソと小さな声だった、俺はその声に同じく小さな声で一言返事をした




「分かったよ」




父に言われた通り、母が寝るのを俺は待った、しばらくして、深夜12時頃だろうか、一階の部屋が静かになったのを俺は二階の自室から確認した




(父さん、急に自分の部屋に俺を呼ぶなんてどうしたんだろう、また勉強しろって言われるのかな?)




「コンコンッ」




俺は母に気づかれないよう、父の部屋の扉を軽くノックした



「おう、来たか、入れよ」




父が扉を開き、俺はその指示に従い、父の部屋のベッドに腰かけた




「父さん、何か用でもあるの?」




「あー、お前に言いたいことがあってな」




俺はその時、少しビビっていた、母さんが父さんに説教しろって言ったんじゃないかって




「まー、その前に見せたいものがあるからとりあえずそこ、開けてみろよ」




「そこって、ただの押入れじゃん」




父が指差す方向にある押入れのふすまを俺は指示通り開けた




「うわぁっ!!何これ?!」




「どうだ?すごいだろ?」




押入れの中は改造されており、その中はギターや音楽機材で満たされていた




「こ、これ!全部父さんのなの?!」




「あぁ、そうだぞ?バンドを辞めてからもどうしても忘れられなくってな、残してあるんだ」




ギターや見たことのないその音楽機材は古そうに見えたが、その状態はいいように思えた




「さっきは母さんの前だったからあんなこと言ったけど、本当はお前が将来、やりたいって言ってくれるのを待ってたんだ」



「そうなの?」




僕は驚いた、普段見ない、父の顔を見て




「この中から好きなの一本やるよ」




「ええ?!この中から?!」




ギターは合計5本あった、種類やどんな音が出るかなんて分からなかったけど、その時は物凄くワクワクした




「これ、かっこいい!」



「あぁ、ストラトか、テレビとかで良く見たりしたことあるだろ?」




確かに、このギターはこれぞギター!みたいな感じだし、




「ギターを選ぶときに1番大事なこと教えてやるよ」



「1番大事なこと?」




俺は音色なのだろうか、形なのだろうかと首を傾げながら考えた



「それはな、直感だよ」




「直感?」




俺は父が言ったことでさらに疑問が頭の中で交差した、何故なら、楽器なのだからいい音がする方が良いに決まってると思っていたからだ




「んじゃ、一本ずつ持ってみるか?」




「うん!」




俺は新しい世界が広がったと思った



「じゃあ、1本目はお前がかっこいいって言ったストラトからにするか?」



このギターの種類はそういう名前なのかと思いながら俺はおもむろにそのギターを握った




「どうだ?」



「ギターってこんなに軽いの?」



俺は驚いた、楽器なのにこんなに軽いのかと




「元々、ストラト、ストラトキャスターっていうのは人間工学を元に研究して作られたギターだからな、軽さや扱いやすさは他のギターよりも飛び抜けて良いかもな」




言われてみればギターを持ったことのない自分でもその扱いやすさが理解できた




「じゃー、次はテレキャスターでいいか」




「うん!」



俺はそのギターを最初、変な形のギターだなと思っただが、持ってみるとその印象は覆されたのだ




「さっきのギターと似てる!」




「まあ、そうだな、扱いやすさはストラトの次ぐらいだし、何より弾き語りがしやすいってので有名なギターだよ」




俺は聞いたこともない単語を聞き、さらに胸の鼓動を高ぶらせた




「じゃー、次はレスポールだな」




「レスポール?」




名前の響きは今のところ1番かっこいいと思った




「持ってみろ」




「重っつ!!!」




先程持った二本のギターよりはるかにそのギターは重量があった




「重いだろうな、それにそのギターは好き嫌いが結構別れるギターだ、俺からするとレスポールは重くて引きにくいギターだよ」




「へー、そうなんだ」




父はそのギターを厄介そうに見ていたが、父が持っているギターの中で1番引き込まれた後が所々目立っていた




「ちょっと弾いてみてもいい?」




「いいけど、生音だぞ?アンプ繋いだら母さん起きちゃうからな?」




父は口元に人差し指を当てながら俺にそう言った




「ジャカジャーン!!」



俺は慣れない手つきで適当にそのギターの弦を弾いた




「父さん、俺、このギターにする!」




「は?!お前レスポールを選ぶのか?!」




父は少し驚いた顔をしていた




「うん、そっちの二本も弾きやすいし軽いだろうけど、なんか俺はこれがいいんだ」




「そうか、お前が言うならいいよ」




俺が何故このギターを選んだかと言うと、ギターを選ぶ際、最初、父に言われた事を思い出したからだ、直感が大事ということを




「でもなんでレスポールなんだ?悟史、」




「父さん、最初に言ったじゃないか、直感が大事だって、俺も最初は重いし嫌だなって思ったけど、直感でこれがいいと思ったんだ」




俺はまだまだ抑えられもしない弦を弾きながら父に向かってそう呟いた




「そうか、そいつはなギブソンのレスポールだ、古いがまあまあいい音が出る」




「そうなんだ!ありがとう!」




初めて手にしたギター、俺は櫻井にお近づきになりたい、その感情以外の物が自分の心に芽生えるのを感じた




「じゃあ明日から教えてよ!!」




「ダメだ!!母さんがいるからな?それに勉強もちゃんとしなきゃダメだろ?俺が休みの土日なら見てやってもいいけどな」




父は土日休みのサラリーマンで、母は基本的に父が休みの日、つまり土日の午前中はパートなので好都合だった




「今日はもう遅いし寝るんだぞ?」




「うん、おやすみ父さん」




人というものは、というより俺という人間は単純なもので次の日からギターを弾くために以前よりも勉強をするようになった




「父さん、何を教えてくれるの?」




そして瞬く間に約束の土日がやってきた




「まずはアンプに繋いで音を出してみるとこからだな、そのコードみたいなやつをギターの穴が空いてるところに繋ぐんだ」




言われるがまま俺はレスポールのボディ側面部の穴にコードを刺した




「今さしたのはシールドって言ってな、アンプとギターを繋ぐ線だ、これを繋ぐときはアンプの音量をゼロにしとけよ?じゃないと最悪の場合、アンプ壊れるからな」




なるほどと頷くと、アンプのつまみを父が少し回した




「よし、この間みたいにピックで弦を弾いてみな?」




俺は思い切り弦を弾いた




「ジャリジャリーーン!!!!」




「バカ!そんな力任せに弾くやついるか!!」




弾いた張本人の俺は雷が落ちたのかと思い、驚愕していた




「あのな?ギターってのは思い切りも必要だけど基本的に優しく弾くものなんだよ」




「そうなの?」




テレビなどでみるバンドやアーティストはこのくらい思い切り弾いていると思っていたから予想外だった




「貸してみろ、いいか?優しいとは言っても優しすぎない程度でこうやって弾くんだ」




「シャリシャリ〜ン」




父が弾くそのギターの音色は俺が先程弾いたものとはまるで別物だった、聞いていて心地いい、そんな気がした




「どうだ?やってみて」




「俺、もっとギターを覚えたい!」




そう頼むと父は心よくそれに応じた




「そんじゃ、お前に今日からロックギターの基礎を叩き込むから覚悟しておけよ!」




「うっす!!」




それから、春になるまではとても早く、あっという間に受験当日を迎えてしまった




「圭佑ー!用意出来てるのー?!」




「母さんさっきも言ったでしょ?準備ならとっくにできてるよ!!!」




少し緊張していたが、その日の朝も僕は自分の部屋でギターを弾いていた




「忘れ物ない?」




「うん、確認したし大丈夫だよ」




試験会場である志望校に向かう時間になり、母さんがそれを見送ろうとしていた




「分からなくても名前だけは書くのよ?」




「分かってるって、それじゃ行ってきます!」




僕はこの日まで積み上げてきた勉強量に多少自信があったので、それなりに自信があった、何よりあの櫻井さんと同じ高校に通うため、ギターをもっと弾きたいから、そんな理由だけど頑張ったんだ




「解答用紙は全員配られましたね?まもなく試験が始まります、私語は慎むように」




志望校に到着し、受付を終え席に着く、暫くすると解答用紙と問題用紙が配られた




「では、はじめ」



受験独特の重たい空気の教室、けれど俺の心は何も気負うことはなかった、思ったよりスラスラと問題が解けたからだ



「試験終了時刻です」




当たり前だけどその日の試験は俺が今までしていた受験勉強の時間よりあっという間に終わり、俺は下駄箱で靴を取り、帰ろうとした




「あっ」




声の方に視線を向けると、彼女が居た、櫻井さんだ




「そういえば栗田くんも志望校いっしょだったよね?試験どうだった?」




俺は声をかけられて挙動不審になる、相変わらず可愛い・・・。




「ま、まぁまぁかな?櫻井さんは?」




「私は少し不安〜!」



自然に会話ができていることに俺はすごく幸せだった、実は君のためにギターを練習してるって声を大にして伝えたかった




「それじゃ!ここ受けたの私たちだけみたいだし、入学できたらお互いよろしくね!」



「う、うん」



手を振って彼女見送った




「おかえり、どうだった?」




帰ると母さんがそう呟く




「まぁまぁだったよ」




なによそれ〜という母の返事を横目に俺は自室に向かった



「レスポールを片手に覚えたてのコードを鳴らし、受かればまたあの子と同じ学校に通えるんだなと、そんなことを考えた」




試験を終えると時が過ぎるのはあっという間で、合格発表当日になっていた




「0131〜っと」




合格者が記載された紙が貼ってある掲示板をみて自分の受験番号があるか探した



「よし!」



番号を確認し、学校近くの公衆電話から自分の家宛に電話をかけた




「け、圭佑?どうだったの?」



「桜、咲いたよ母さん」




そう呟くと半泣きになりながら母が喜んでいた




「おかえり〜!」



家に帰ると父も仕事が早く片付いたようで両親2人が出迎えてくれた




「よく頑張ったな、圭佑」



「ありがとう!2人とも!」




そんなことを言いつつ、俺の頭の中は櫻井さんとギターのことでいっぱいだった



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