白刃のリベリオン ~村を焼かれた青年はなんでも斬れる魔剣を手に帝国へと復讐せん~

連理

第1話



 目を覚ました時何かが爆ぜるようなパチパチという音が周りから聞こえた。



 俺の生まれ育った村が燃えていた。



「え?何だよ火事か? 母さん父さん無事!?」



 家を出てそんなことを口走った時に近くから声をかけられた。



「君はこの村の住人か、それとも旅人かな?」



 そこにいたのは英雄譚の主役とでも表現するのが相応しいような美しい銀の髪と容姿を持つ帝国騎士団の装いに身を包んだ一人の青年、そして彼と同じ装いに身を包んだ騎士たちだった。



「はい、生まれも育ちも!それより村が燃えてて、母さんと父さんがどこにもいなくて――」



 そう早口にまくしたてる俺の言葉が終わらぬうちに騎士たちは剣に手をかけ告げる。



「そうか、ならば君に罪はないが死んでもらわないと困る」



「子供を手にかけるのは私がやろう、罪悪感を抱えるのは私一人で良い。言い残すことはあるか?」



 銀髪の青年は剣を抜き俺に突きつけ、こちらに歩いてきた。



「待て、俺の息子に手を出すんじゃねえ! 俺が相手になってやる!」



「ライル、あなたは走って精霊樹の森に逃げなさい。私たちがなんとかするからね」



 そう大声を上げて父と母が騎士たちの背後から襲い掛かる



「二人ともどうすんだよ俺一人で!一緒に来てよ!」



 俺は二人に手を伸ばす。けれど両親はそれに背を向けたまま答えた。



「安心して、私たちもすぐ追いかけるから」



「こいつらだって俺より森には詳しくねえだろ、動かず待ってろよ」



「うん分かった! 早く来てよ、絶対だよ!」



俺を安心させるように微笑みを向けた母と力強く語る父に背を向けて俺は走って、走って、走って、走って走って走って





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「起きろー、朝だぞー、うわ凄い汗」



「おはよう、久々に昔の夢見てたわ」



 街道から少し外れた森の入口で一組の男女がキャンプをしていた。



 茶髪の男は袋を背負い腰には剣をさげた冒険者と一目で分かるような恰好をしている。



 一方彼と親しげに話す白髪の少女は腰にナイフを挿しただけのとても旅をするような服装ではない。



「朝食の前に汗流した方がいいんじゃない? とっとと宿屋に泊りたいんだけどまだ教国にはつかないのライル?」



「まだ一番近い村にすらついてないんだぞ。サヤはもう少し忍耐というものを学んでくれ」



「うわっ、イヤミだ。私と出会ったときはもう少し可愛げがあったのにどうしてこうなっちゃったんだか」



「今更気をつかう必要も無いだろ」



 隣で不満を口に出す相棒をよそに俺は対帝国同盟のリーダー、ガウランさんから貰った地図とメモに目を通す。



 コート村─農耕と牧畜を主な産業としている大きな村。村の中央に生えている木が昔大地の精霊の祝福を受けたらしくその影響か作物が良く育つ。


そのため村人は恵みを間近に感じられるからか信仰心に篤いものが多いという。


ヴァレリア帝国とデュアルマ教国の中間ほどに位置しているがどちらとも深い関係にはない。



(教国につく前にこの村に寄って1つ問題を解決してくれって言われたけど何があるのかねぇ)



「まっ、先に近くの村で宿とって装備整えて向かうのがいいだろ。帝国の奴らに盗賊に魔物と何が起きるか分からんしな、準備は必要だろ」



「さんせー、まあ私がいるから武器なんて要らないと思うけどね」



「食料はいるだろ、お前だってどうせ買い食いする癖に」



 いつものように軽口を叩き合いながら俺たちは朝食をとり旅の続きを始めようとしていた



「……ねえねえ、なんか聞こえない?走ってるような音」



「ああ、この速さは魔物だろうな。仕方ねえ迎え撃つぞ」



「了解よ」



 俺は剣の鞘に手をかけ音の聞こえたほうに向けて構えた。けれどそこに見えたのはこちらを喰らおうとする怪物ではなくて、


ふわふわとした金色の髪、土と泥に汚れた純白だったであろう服に身を包んだ幼さを残す少女だった。



「危ないそこのお兄さん! どうか急いで逃げてください!」



 その表情が見えるころには彼女の後ろに迫る魔物が見える。



「ロックリザード三匹か……この程度なら安心しろよ、俺とサヤがどうにかしてやるから後ろに隠れてな」



「えっ?いえ、あいつらは固くて──」



「知ってるぜ、任せろ」



 彼女が俺の後方に走るのを確認すると俺は剣を抜いて魔物に立ち向かう。



「ここはお前らの暮らしてるところじゃねえだろ?飯なら分けてやるから引いてくれないか?」



「shyaaaaaaaa!!!」



「無理か、悪いな」



 俺は真正面からこちらに走りくるロックリザードを斜めに斬り捨てる、そしてその死体を後ろから来る奴に向けて蹴り飛ばした。



「gyaaaaaaa!」



 片方がそれに引っかかり動きが遅くなる、そしてこっちに突っ込んできた一体を斬り伏せる。



「終わったぜ、お嬢さん。名前と事情聞いてもいいか?なんか力になれるかもしれないしな」



 最後に残ったヤツも斬ってから俺は少女に問いかけた。



「助かりました、私はアリア。コート村から逃げてきたんです」



「コート村?俺らもそこに向かう予定だったんだが逃げてきたってどういうことだ?」



「……それは、今村に帝国の偉い人が来て、村の人たちを捕まえて、それで神樹について聞いてきて、そのために酷いこともして私は逃がしてもらって!」



 話す間にヒートアップしていく彼女を見ながら俺は自分の過去を思い出していた。



「そういうことなら手を貸すぜ、お前の代わりに帝国の奴らに怒りをぶつけてやるよ。勿論村の人たちだって助け出すしさ」



「ちょっと待ってよ!あんたならそう言うと思ったけど教国の方に向かうんじゃないの?」



「向かう道で寄るくらいだし変わんねえだろ?そもそもガウランさんからも立ち寄ってくれって言われたしな」



「じゃあ先に私に伝えておきなさいよ!!はあ……どうせ言われてなくても私が行くなって言っても行くんでしょ?」



「悪かったって、村に向かうって言っただろ?そこのつもりだったんだよ」



「説明不足!!」



「次は気を付けるって、まあそういうことなんで気にせず案内だけしてくれれば後は……ってどうしたアリアさん?」



「えっと……その子、今どこから出てきたんです?見間違いじゃなければ今急に現れたように見えて」



 俺はそれを聞きサヤと顔を見合わせる、やっちまったというサヤに気にするなと手ぶりで伝えアリアさんに向き直る



「この子はサヤ、俺の持ってる剣の精霊だ。そして俺はライル、色々と帝国のせいで困ってる人を助けるために旅してるんだ」



「精霊さんにライルさんですか、改めて先程はありがとうございました。でも帝国の人たちは騎士の服を着ていて、とても恐ろしい人たちでした。旅の人たちを巻き込むわけには──」



 帝国に苦しめられている人を助けようとするといつもこうだ。苦しいのは自分たちなのに俺や他の人を巻き込みたくないとそれを拒む。


そしてそういう優しい相手に俺はいつものようにこう告げる。



「俺は対帝国同盟のライル、”なんでも切れる魔剣”の使い手だ」



「えっ、対帝国、それになんでも切れるって──」



「苦しめられているのは君たちだ、そして俺はそんな君たちを助けたい。上からに聞こえるかもしれないが俺は君に手を差し出そう。助けて欲しいなら手を取ってくれないかな?」



 そう言って手を伸ばした俺の手を彼女は少し逡巡した後に取ってくれた。俺はそれに笑みを向けて、そして譲れない信念にかけてこう告げる



「ありがとう、俺を信じてくれて。俺の手を取ってくれた君にかけて弱者を踏みにじる帝国も、君の恐怖も断ち切ってみせるよ」



 言い切ってしまったが問題ない。俺のサヤは絶対の魔剣、魔物も鎧も、そして運命も異能も全て切り伏せる無敵の魔剣だ。


 だから俺とサヤなら絶対に彼女を助けられるのだから。

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