4-10 とことん威厳のない少佐

 エルヴィンが落ち込んでいた時、テントの前に人影が現れた。



「失礼します」



 そう言うと、1人の兵士が入ってきた。



「フライブルク少佐、司令部より伝令として参りました」



 兵士はそう言いながら敬礼する。


 しかし、敬礼した前にいたのはガンリュウ大尉だった。


 大尉は、エルヴィンと間違えられたことに少し不快感を感じながらも、それが表に出ないよう我慢した。



「小官は少佐ではありません」


「え⁈」



 兵士は上官を間違えてしまったことに戸惑い、すぐに辺りを見回し、少佐らしき人物を探した。



「あ、あなたが少佐ですか!」



 兵士の視線の先に居たのはアンナだった。


 薄々こうなるかもと思っていたアンナは、これといった反応は示さず冷静だった。



「私でもありませんよ」



 兵士は更に戸惑い、少佐への不敬に当たっている事から、少し慌てた様子で辺りを見回した。



「じゃあ、少佐はどこに……」



 兵士が必死で少佐を探す中、ガンリュウ大尉とアンナは見兼ねて、黙ってエルヴィンを指差し、2人が指差した先で、エルヴィンは恐る恐る右手を上げ、苦笑いをした。



「私です……」



 その様子を見た兵士は驚きを隠せなかった。



「え⁈ 貴官が少佐ですか? いや……え⁈」



 兵士は、エルヴィンの姿から士官という印象を全く受けず、どう見ても、そこら辺にいる1兵士にしか見えなかったのだ。


 兵士は暫く唖然として立ち尽くしたが、直ぐに元に戻り、今の状況を理解した。そして、士官に無礼な態度をしてしまったという恐怖に襲われながら、エルヴィンの方を向き、深々と頭を下げた。



「申し訳ありません‼︎ 少佐を間違えるなど、伝令にあるまじき行為でした‼︎」



 少し恐怖で震えながら謝る兵士を見ながら、エルヴィンは少し困った様子で苦笑いした。



「いや、別にいいよ」



 笑顔で許すエルヴィンを見て、兵士は少しホッとしながら頭を上げた。



「で、何の用だい?」



 エルヴィンの言葉を聞き、兵士は自分の用事を始めた。



「緊急会議における決定事項をお知らせします」



 それを聞いた3人に少しばかり緊張が走った。



「フライブルク少佐麾下きか、第11独立遊撃大隊は、明朝05より、敵補給基地の攻撃に向かわれたし。攻撃目標は、地図に記された以下の場所である」



 兵士はそう言うと、肩がけ鞄から大きめの封筒を取り出し、エルヴィンに手渡した。


 封筒を受け取ったエルヴィンがその封を開けると、中には要塞周辺の地図が入っており、そこには、要塞東方に位置する森の中に、3つの赤い点が書かれていた。



「確かに承った。伝令ご苦労、下がっていいよ」



 エルヴィンがそう言うと、兵士は敬礼し、テントを後にした。


 兵士を笑顔で見送ったエルヴィン。兵士の姿が完全に見えなくなった後、彼は突然、大きな溜め息をいた



「私、そんなに士官に見えないかなぁ……」



 本気で凹むエルヴィンの意外な光景を見て、ガンリュウ大尉とアンナは少し驚く。



「「士官に見えると思っていたことに驚きだ(です)」」



 2人は揃ってそう口にした。


 それを聞いたエルヴィンは、自分の威厳の無さがどれだけ酷いのか、この時、悟るのだった。

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