2-14 不良少年

 2人は必死で走り回り、なんとか警備員から逃げ切る事に成功した。

 しかし、流石に長々と全力疾走していたので、2人の疲労はピークに達し、息を荒くしながら地面に座り込んだ。



「あの警備員、最後に俺達を不良とか呼んでいやがったな……まったく、夜、出歩いていたぐらいで不良扱いとは……失礼な野郎だ!」


「妥当じゃないかな? 君はこんな遅くまで校外に出ていたわけだし……私は不良じゃないけどね!」


「なら、お前も同族だ。こんな遅くに寮から出ていたんだからな」


「私はこの一回だけだよ、君みたいな不良とは言えないね」



 2人はそう言うと、何故か可笑しくなり、高らかに、子供の様に笑い始めた。その様子はさながら、昔馴染みの悪友同士の様だったろう。


 一頻り笑った2人。すると学生はエルヴィンに見覚えがある事を思い出した。



「お前って……確か2年だよな? 貴族のボンボン共が噂していた"変人貴族"」


「変人貴族? そんな呼ばれ方していたのか……何故、そう呼ばれているんだろう? 私は普通に生活していただけ、なんだけど……」



 エルヴィンが腕を組み、月だけが見える空を眺めながら、異名の意味を考えていた。

 その様子を見た学生は、思わず笑いをこぼした。



「面白いな、お前……」


「面白い?」


「あぁ……面白い」



 自分の事を面白いと言う目の前の人物に、エルヴィンは首を傾げて返した。


 学生は、首を傾げる目の前の人物が更に面白く感じ、また笑いをこぼした。



「普通に生活しているってお前は言うがな、貴族でありながら、見ず知らずの獣人族を強姦から助けるのを、普通の一部として考えられるのは、普通じゃないんだよ……この国ではな」



 学生の話を聞いたエルヴィンは、白銀色の髪をした獣人族の子供を助けた事を思い出した。

 亜人差別、獣人差別の激しい帝国で、しかも貴族が獣人を助けるなど、確かに変わった行為ではあったし、変人貴族と呼ばれるには十分な理由である。

 しかし、それでも、納得はいかなかったエルヴィンは首を傾げ続けたが、ふと、まるで自分と友人の様に話す学生に、ある疑問をもった。


「そういえば、君は私に嫌悪感を感じないのかい?」


「何故だ?」


「私が貴族だと分かると、大抵の平民は私を睨むからさ……君、平民だろ?」


「まぁ、貴族に含む所が無い訳じゃねぇが……言っただろ? お前は面白い! それだけで、お前に好感を持つには十分だ!」


「そういうものか?」


「そういうものだ!」



 やはり、学生の自分に対する面白いという価値観を、エルヴィンは結局、理解出来なかった。




 その後、2人は長時間語り合った。そして、エルヴィンは学生がどういう人物か分かってきた。


 学生は校門が閉まる前、外の女達と遊んでおり、時間も気にせず楽しんでいたら、こんな時間になったのだと言う。


 学生は女遊び人だったのだ。


 エルヴィンは呆れた。しかし、不思議と嫌悪感は抱かなかった。彼の話ぶりから、相手の女性たちへの誠意を感じたからだ。



「そういえば、まだ自己紹介していなかったね……私は、エルヴィン・フライブルク。知っての通りの貴族だ」


「俺は、ルートヴィッヒ・コブレンツだ! 1年で、お前の後輩さ」


「え? 後輩なのに、私をお前呼びしてたのかい?」


「たった1年違うだけだろう? 呼び方なんかどうでもいいだろう」


「良くは、ないと思うけど……」


「あはははははは!」



 軽口を言いながら楽しく笑うルートヴィッヒ、それに苦笑で返すエルヴィン、この日、2人は後の親友と出会う事となった。

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