1-19 抵抗の果て
暫くし、轟音と暴風は消え、辺りに静寂が訪れた。
ヴァランス大佐は意識を失い倒れていたが、まだ生きてはいた。
大佐は目を覚まし、頭痛がする頭を抑えながら起き上がると、辺りを見渡し、そして、絶句する。
視界一帯には、粉々になった木々、負傷して悲鳴をあげる兵士、そして、無数に倒れる味方の屍が転がっていたのである。
「なんということだ……」
ヴァランス大佐は、あまりの出来事に頭が追いつかず、立ち尽くしていた。しかし、ふと、イストル中佐のことを思い出すと、慌ててもう一度辺りを見渡した。
「中佐! イストル中佐っ! どこにいるっ!」
すると、辺りに酷い悪臭が漂っていることに気付く。それは、なにかが焦げたような、焼けたような臭いだった。
そして、それは直ぐそこ、右足下から臭っている。
大佐はそっと、恐る恐る右足下を見下ろし、その臭いの元凶を見て言葉を失った。
「そんな……馬鹿な……」
それは、背中が焼け焦げた状態でうつ伏せになって倒れた、イストル中佐の死体だった。
「中佐っ‼︎」
ヴァランス大佐は中佐の亡骸に寄り添い、中佐の死を嘆いた。しかし、涙は流さず、心の奥から湧き出た恨みと怒りを顔に浮き出した。
「帝国軍め、絶対に許さん……」
その時、正面の奥から、帝国軍が隊列を組みながら、こちらに近付いてくるのを、大佐は目にした。
共和国兵の生き残りの掃討を行うのだろう。
大佐は近くにあった仲間の死体から銃を拾い、弾薬を死体の服のポケットから取り出すと、自分のポケットに入れた。そして、立ち上がり、帝国兵の死角になる木の後ろに隠れた。
呼吸を整え、自分の気持ちを落ち着かせ、散らばった味方を確認した大佐は、周りに響く声で叫んだ。
「生き残った共和国軍兵士達に告ぐっ! 帝国兵を1人でも多く殺せっ! そして、死んでいった者達への手向けにせよぉおっ‼︎」
ヴァランス大佐の命令を聞き、生き残っていた共和国兵達は次々と銃を握り、恐怖を払拭する様に、雄叫びを上げながら帝国兵目掛けて駆け出した。
「「「ウォオオオオオオオオオオオッ」」」
雄叫びに驚いた帝国兵、即座に敵が迫ってくる事を悟った彼等は、銃を共和国兵に向け、銃撃の構えをとった。
そして、間も置かずに銃声が轟く。
それと同時に共和国兵は次々と倒れていき、更なる共和国兵の屍が積まれる。
共和国兵達も銃を撃とうとするが、標準を合わせる為、立ち止まったところを敵に撃ち殺される。
陣形を組み、万全の防御態勢をとる帝国軍。
無秩序に、只、敵に突撃していく共和国軍。
結果は火を見るよりも明らかだった。
共和国兵は次々と無残に撃ち殺されていき、帝国兵の損害はごく僅かだった。
それでも怯まず恐れず襲いかかってくる共和国兵達は、まるで獲物を狙う猛獣の様であり、その様子に帝国兵は怯みながらも、自分達の命を守るため、撃ち殺し続けた。
ヴァランス大佐は次々と仲間が倒れていく中、ただひたすら帝国軍目掛けて走りながら銃を撃ち続ける。
銃の弾がなくなると、銃を捨て、腰の拳銃を抜き出し撃ち続ける。
そして、とうとう拳銃の弾もなくなると、ナイフを取り出し、帝国兵に襲いかかった。
大佐の目前に居た1人の帝国兵が、銃に弾を込めようとするが、その最中に大佐に躍りかかられ、銃を地面に落とし、倒れ、ヴァランス大佐は右手のナイフを帝国兵の喉元めがけて振り下ろすが、帝国兵はそれを両手で抑える。
帝国兵の抵抗の
しかし、次の瞬間、1発の銃声と共に、大佐の右脇腹に激痛が走る。
大佐は自分の右脇腹を見た。
右脇腹に小さな穴が空き、そこから大量の血が流れ出ていたのだ。
大佐がふと銃弾が飛んで来た先、前方をに視線を向けると、5人の帝国兵がヴァランス大佐に銃口を向けていた。
ヴァランス大佐は、抜け行く気力と体力を振り絞り、立ち上がり、標的を移し、5人の帝国兵目掛けて、雄叫びを上げながら駆け出した。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオッ!」
5人の帝国兵は、敵の異常な戦意に恐怖を感じた。しかし、それが逆に帝国兵達の自衛本能を掻き立て、引き金を引く瞬間を早めた。
5人の帝国兵は引き金を引き、5つの銃弾がヴァランス大佐を襲ったのだ。
5発の銃弾は大佐の肩を、足を、腹を撃ち抜き、そして、心臓に2発の銃弾が入った。
「グボッ!」
大佐は口から大量の血反吐を吐くと、胸や撃たれたあちこちから血を流し続けながら、力尽き、地面に倒れた。
薄れゆく意識、抜けて行く命の中、大佐は辺りを見渡す。
倒れていく共和国兵達、恐怖で動かない共和国兵達、負傷で動けない共和国兵達。最早、そこに共和国兵が勝利すら可能性は、微塵も残されていなかった。
しかし、大佐は、まだ諦めんと言わんばかりに、まともに張り上げられない声を無理矢理引き出し、自分の存在を示すように、味方を鼓舞するように最後に叫んだ。
「共和国万歳っ‼︎ 帝国に破滅あれぇえっ‼︎」
その叫びを最後に、大佐の命は完全に消え、静かに息を引き取るのだった。
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