1-12 夢と現実

 とある家の、とある一室。そこで少年は、部屋を暗くし、布団にくるまりながら、何かの機械をいじっていた。


 その機械には、バツや丸、三角などが書かれたボタンや、小さなレバーがついており、ボタンを押したり、レバーを動かしたりすると、画面の映像が動き、変わる。


 度々、機械からは音楽も流れ、明るい物や暗い音楽など様々だ。


 そして、そんな音楽に紛れて、複数の人の声すら、機械から流れてくる。



『殿、どうやら御別れで御座います』


『何を言う! 共に故郷へと変えるのだ!』


『いえ、それがしは此処にて敵を足止めします。その隙に殿はお逃げ下され』


『ならん!』


『殿! 殿さえ生き残れば、我々は負けにはならぬのです! どうか御決断を!』


『……分かった。だが! 貴様も後で追いかけてくるのだぞ!』


『はっ!』



 主従の会話、臣下の鏡、優れた度量を持つあるじ、画面越しに見た光景に、少年は心躍らせる。


 そんな時、部屋のドアがノックされた。



「おいっ! 飯だぞ!」



 低音の男の声、それを聞いた少年は機械を敷布団に置き、自分を覆っていた布団を払い除けると、ドアへと向かい、ノブを回して、部屋を出た。そして、少し呆れた様子の、低音の男と出くわす。



「おいっ! また電気付けずにゲームしてたな? やるのは良いが、電気付けてやれ!」


「ごめんごめん……」


「まったく……」


「ところでさ、言いたい事があるんだ!」


「何だ?」


「俺さ…………」



 突然、騒音が聞こえた。


 それと同時に夢の映像が歪み、崩れ、最後は真っ暗になる。


 夢が消えたエルヴィン、彼は目が覚め始めていたのだ。


 謎の騒音により、エルヴィンは起こされたのである。



「なんか、騒がしいな……」



 テント外から聞こえる騒音、いや、複数の人の声からなる騒がしさ、それがエルヴィンは気になった。



「何かあったのかな?」



 エルヴィンは軍帽を顔から外すと、足を机から下ろし、背伸びをして、椅子から立ち上がった。そして、軍帽を机の上に置き、テントから出ようと歩き出した。


 すると、突然、アンナが慌てた様子でテントへ入ってきた。



「エルヴィン、大変ですっ!」


「どうしたんだい?」


「隊長が……隊長が、部隊の大半を率いて、"敵の本陣を攻撃に向かい"ましたっ!」


「なんだって⁉︎」



 アンナの知らせを聞いたエルヴィンは驚いた。


 敵の兵力はこちらの3倍、圧倒的優位な敵の懐に自ら飛び込むなど、自殺行為であった。



「防衛戦の優位を自ら捨てるとは……隊長は一体、何を考えているんだっ!」



 エルヴィンは憤りのあまり頭を掻きむしった。

 しかし、直ぐに頭から手を離し、気持ちを落ち着かせ、状況を整理した。



「アンナ、隊長達が出撃してどのくらい経っている?」


「およそ1時間です……申し訳ありません。衛生兵の手伝いをしていて、隊長が出撃したことに気付きませんでした……」


「謝る必要はないよ。隊長が出撃した時、私は悠々と寝ていたんだ。明らかにこちらの方が悪いだろ?」



 エルヴィンの言葉には、アンナを安心させるものより、むしろカッセル少佐の愚行を止められなかった自分を非難している、という節があった。



「さて、これからどうするか……」



 エルヴィンは考え込みながらアンナと共にテントを出た。



「今から追っても間に合わない……もし間に合ったとしても、隊長が私の意見に耳を貸す筈がないか……」



 エルヴィンはそう言うと、また頭を掻きむしった。



「このままじゃ、間違いなく隊長達は包囲殲滅される……」



 エルヴィンは頭から手を離すと、深呼吸をし、もう一度、頭を整理した。



「アンナ、残っている兵の数はわかるかな?」


「はい……負傷兵21、衛生兵5、魔導兵4、本陣防衛のための兵士8、そして、エルヴィンと私、計40人残っています」



 エルヴィンは顎をつまみ、独り言を述べながら考え込んだ。



「魔導兵が残っている? 彼らを使えば……いや、森の中で使えば味方にも被害が出る……」



 暫く考え込んでいたエルヴィン、すると突然、眉をしかめた。



「これしかないのか……」



 そう呟くと、エルヴィンは向きを変え、目的地を変えた。

 その方向を見たアンナは、エルヴィンが向かう先に気付く。


 あっちは、野戦病院がある方向では……。


 アンナは首を傾げながらも、何か策あっての事だろうと、エルヴィンに付いて行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る