1-10 告げられる窮地

 第1中隊による敵偵察兵撃破が続けられていた時、それを命じた当のエルヴィンは、アンナ監視の下、書類仕事を渋々おこなわされていた。



「アンナさん……そんな引っ付かなくても、逃げやしないよ……」



 エルヴィンは恐る恐る、自分の左後ろに立つアンナに言った。



「嘘言わないで下さい。そう言って何回も逃げ出しているじゃないですか! もう、その面での信頼は失っているんですよ」



 見事に論破されたエルヴィンは、苦い気持ちになりながら、嫌々、黙々とペンを進めた。


 すると、テントの外に、人影が現れた。



「副隊長、入室を許可願います!」



 テントの外から、若い男性の声が聞こえた。



「うん、入っていいよ!」



 エルヴィンは書類に目をやりながら、テントへの入室を許可した。すると、2人の若い男性兵士が入ってきた。


 そして、エルヴィンがふと、その兵士達に目をやると、彼は目を丸くし、手を止め、ペンを机に置き、2人の兵士達を凝視しながら、席から立ち上あがった。


 エルヴィンの目の前には、ノイキルヒと、彼に肩を貸された、足を負傷したコトブスの姿があったたのだ。



「副隊長、この様な姿での拝謁はいえつ、申し訳ありません!」


「そんなことはいいんだ! それより、傷をおしてまでの報告はなんだい?」



 一兵卒の怪我を気遣う副隊長に、コトブスとノイキルヒは。副隊長の優しさを感じ、笑みをこぼしながらも、直ぐに真剣な表情になり、2人は報告を始めた。


 コトブスが、逃げる途中に、敵に撃たれて負傷した事。そして、敵が1個大隊ではなく、1個連隊である事を、エルヴィンに伝えたのだ。


 それ等の報告を聞いたエルヴィンは、頭をきながら、困った様子で苦い顔をした。



「参ったな〜……」



 エルヴィンは一頻ひとしきり悩んだ後、外に控えていた兵士に、部隊へもっと広範囲に偵察を出すよう伝えるよう指示した。



「ノイキルヒ二等兵、コトブス伍長、よく知らせてくれた。君達はゆっくり休んでくれ」



 労いも忘れぬ副隊長に、コトブスとノイキルヒはまた笑みを浮かべつつ、敬礼をし、コトブスを治療して貰う為、野戦病院へと向かった。




 暫くして、敵を偵察した結果が返ってきた。


 敵は東北東3キロに1個大隊約400、東南東3キロに1個大隊約400、東の敵本隊と合わせると、計1個連隊約1200である事が分かった。


 共和国軍は此方の3倍の兵力で、ヴァルト村を半ば囲む様に陣を張っていたのである。

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