13「和解への道」

 両家は更に疎遠となりました。儀礼的に続いていた事務連絡も途絶いたします。貴族社会からもはじき出され、我が家は第三王都アジャクシオの王政や王宮などから好奇の目で見られております。

 おめおめと、まだ何をやっているのかと。なぜあきらめないのだ。しつこい連中だと。

 私たち家族は屈辱と、周囲の視線に耐える惨めな日々が続きました。


 アルフォンス殿下と令嬢ソランジュ様は、誰はばかることなく親交を深めているようです。

 ご婚約近し。

 屋敷に閉じこもる私にも、いやがおうにも話が聞こえて来ました。

 そして同時に意外な噂も静かに広がり始めます。

【魅了】です。

 皆がこの街の変化に戸惑っておりました。王宮もそれを感じているはずです。


 そのような最中、ビュファン家から招待状が届きました。主催する王宮の舞踏会に、ぜひ参加してほしいとの内容です。

「ふざけおって! これ以上、まだバシュラール家を愚弄するつもりか!」

 兄は怒りますが、母上は複雑な表情です。父上は顔を曇らせ何事かを考えます。

「いつまでもこのような状況は続けられない。和解の用意がある、とのことではないのかな?」

「これが和解ですか?」

「相手は譲歩だと思っているだろうな。決断する切っ掛けを、わざわざ作ってやったのだと」

「くっ――、また、負ける・・・のか……」

 これ以上のいがみ合いは、確かに両家にとっても良いことはありません。このような争いをいつまでも続ければ、街の運営に支障があると考えているようです。

 第一王都で噂にでもなり、現王陛下の耳にでも入ればどうなるか? 敏腕政務官のアルフォンス様らしい合理的な思考でもあります。

 せめて、表面だけでも取り繕わねばなりません。

 父は私の表情をうかがいます。

「ソランジュ様は素晴らしいお方です。これ以上争っていては、こちらがみじめになるだけですわ」

「……すまない。耐えてくれるか?」

「私は大丈夫です。お父様」

「武でも負け、経済でも負け、そしてお前にまた負けを強いるなど……」

 お兄様は両拳を握り締めます。

「恋愛に勝ち負けなどありません。兄上もそのような考えは改め、早く可愛らしいお嫁さんをもらって下さいな」

「……何を馬鹿な」

 経済戦争も完敗しつつあります。我が家の取引先も次々と距離を取り始めました。どこからか、圧力がかかっているのです。

 領地経営を破綻させ、多くの使用人を路頭に迷わすことなどできません。

 もう、勝ち目などありません。足掻けば足掻くほど、こちらの立場は悪くなるばかりでした。

 アルフォンス様は王族であり、継承権を持つ公爵なのですから。

 私はただ、誠実な話し合いだけを望んでおりました。なぜ婚約を反故ほごにしたのか。私の何がいたらなかったのか。せめてアルフォンス様のお気持ちをお聞かせ頂ければ、次に進めると思ったのです。それも叶いませんでした。

「いいのか?」

「はいっ! お兄様」

「男も女もこぞって、あの・・女の話ばかりしているそうだ。どんな魅力があるだとか、どのような短い言葉を交わしたなどと、自慢し合う連中ばかりが集まっているらしいぞ!」

「自分たちは、そうはなりたくないからな。もはや色恋の話ではない。政治だよ」

「なぜなのでしょう。なぜ女ばかりがこんな目に……」

 お母様は両手で顔を覆いました。

 皆に心配をかけて申し訳ございません。決断いたします。

「大丈夫です。私はバシュラール家の伯爵令嬢なのですから」

 努めて明るく振舞う私の顔を、お父様は沈痛な表情で見ております。

「……破棄通知の返事を出そう。舞踏会へのお前たち二人の出席も」

 敗北は終結との意味もあります。終りの後には、いつも新しい物語が始まるのです。

 これで殿下とあの・・女の婚約を阻む障害はなくなります。

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