04「託児院のひととき」

 庁舎の食堂で昼食を済ませて、午後は裏手の搬入口で物資をチェックします。輸送行政の付き添いとして、王都街壁の外にいくつかある王立託児院に向かいました。前方の三台の荷馬車を私たちの馬車が追いかけ、操者はリュシーが務めます。

 東南農業地区の真ん中には、王政が教会と共同で運営する託児所があります。


 到着すると近所の農民たちがやって来て手際よく荷を下ろし始めのました。中には託児所以外の農業用物資も含まれています。

「まあまあ、御苦労様です」

「こんにちは、シスター・テレーズ。こちらが物資のリストになります」

 責任者の老シスターが出迎えてくれました。リュシーが書類を渡します。

「ありがとうございます。皆がお待ちかねですよ」

 子供たちがわっと部屋から飛びだして来ました。午後は私たちが世話係を務めるのです。


 マリエルはお勉強係です。簡単な足し算引き算などを教え、ちょっと意地悪な問題をだしたりもします。

 リュシーは庭に置かれた遊具係です。体力のない子供などを助けています。

 私はお絵かきを見ます。鉛筆で好きに落書きさせて、それがお姉ちゃんだと言われて苦笑いたします。もうちょっと可愛く描いてくれても……。まあ、子供ですから仕方ありませんね。

 子供たちのお待ちかね、おやつの時間がやって来ました。三人でパンケーキを焼いて、溶かしたチョコレートをかけます。私も童心に帰って子供たちといっしょに頬張りました。格別に美味しく感じますね。


 夕刻も近くなった頃、庭が騒がしくなりました。部屋の子供たちも何事かと飛び出し、私たちも後を追います。

「おっ! 騎士様たちだぜ」

「ホントだ~」

「すごーいっ」

 王都騎士団の制服に身を包んだ三騎がこちらにやって来ます。王都の平和を守り魔獣と戦う騎士様たちは、ちびっ子たちの憧れなのですよ~。

 それにしても、あれは……。お兄様!?

「第七騎士団の警備行動です。あっ、僕たち。あまり馬に近づかないでね」

 兄の右に位置する若手男性が、近寄ろうとする子供たちをやんわりと注意いたしました。左手の女性騎士が私に気が付きます。

「あれ? ディアーヌ様ではないですか。どうされたのですか?」

「慰問の手伝いをさせていただいております」

「それは、それは。さすが伯爵令嬢様。子育て修行中なのですね」

 ぐっ、ぐっさりです。彼女に他意はありません。ラファラン・マルゲリット。狭き門をくぐり抜けた女流騎士様です。

「ヴィクトル団長ってば、いきなり東南に行くなんて言い出して俺たちも別行動ですよー。嫌だなあ。そうならそうと最初っから言ってくれれば……」

 若手に突っ込まれ兄はバツが悪そうな顔になりました。私のことを気にかけてくれたのですね。部下たちに示しが付かなくて、申し訳ありませんでした。

「バカもん。戦場はつねに移動するのだ。お前たちも東南の地形をよく頭に叩き込んでおけよ。騎士の本分を忘れるな」

「よく言いますよねー」

「ホント。私の兄たちも見習って欲しいですよお……」


「ディアーヌお姉様の知ってる人」

 隣の女子が不思議そうに私を見上げます。

「うん。この人、私のお兄さんなのよ」

「え~っ!」

「スゲー。兄貴が騎士だなんて!」

「かっけー」

 子供たち大興奮ですよー。お兄様は更にバツが悪そうな顔になりました。ゴメンなさい……。

「あっ、怖い人じゃないからね」

「けっこう怖いっすよ」

「調子に乗るなよ、フェルナン」

「失礼いたしましたっ! ヴィクトル団長はとても優しい俺たちの団長様ですっ!」

「分かればよろしい。そう、俺は妹と同じで優しい騎士なんだ」

 なんとも楽しい人たちですね。子供たちは目をキラキラさせて三人を見上げます。


 北西の空に光りが上がりました。三名の騎士様たちは真顔になります。これは魔力を使った、騎士たちの連絡手段なのです。

「魔力診断します。第二騎士団が魔獣と接触。小物が一匹だそうで……。どうしますか?」

 フェルナン様が魔力を行使して光を解析しました。

「警戒だな。本隊を北に移動させる。我々も合流するぞ」

「了解です」

「信号打ちます」

 マルゲリット様が北に向けて光球を発射しました。

「というわけだ。行ってくるよ」

「皆様。御武運を」

「大袈裟だな。我らの日常だよ。教会に警告が来るかもしれん。注意してくれ」

「はい」

「帰りも注意するように」

「団長。私が残り、帰路を護衛いたしましょうか?」

 マルゲリット様が申し出でくれました。荷馬車は農作物を積み込みもう帰還していて、今は私たちの馬車だけが待機しております。

「そうしてくれ。フェルナン。最短の間道を探して先行しろ。行くぞっ!」

「はっ!」

 二人の騎士は風のように去り、私たちは女流騎士の護衛まで頂き政務庁舎へと戻りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る