人に翼は生えるのか

マイハル

序章

秋晴れの広がる河原に、エンジン音が鳴り響く。

「よし、よし、よし、好調だ…」

陽炎を撒き散らし、駆動音をあたり一帯に轟かせるエンジンのフレーム–陽光を反射し輝く燻銀の金属板の表面には、一つの単語が綴られていた。


    〈Silberne Flügel〉− 銀の翼


それは彼が心血を注ぎ、文字通り人生を捧げたエンジンの名前だった。



彼はかつて一介のエンジン技師に過ぎなかった。


転機が訪れたのは約5年前。


大企業に勤めていた彼はふとある事を思い付き、試作を開始した−その瞬間、彼の人生は運命のレールから外れ、予測外の方向に転がり出した。


彼が開発したのは新型燃料制御システム−彼の名をとってフルーゲルシステムと呼ばれるそれは排気ガスから燃料を抽出し、それを再びエンジン内へと送り込むシステムである。


これによりエンジンの燃費が大幅に改善、テストでは通常の5倍の航続距離という前代未聞のスコアを叩き出した。それからというもの、そのエンジンの特許は世界中の企業から引っ張りだことなり、世界の運輸を支える縁の下の力持ちとして世界王者の座に今の今まで君臨し続けている。


フルーゲル技師は一躍時の人となり、余生を幸せに暮らしましたとさ–普通の技師ならそうなっただろう。しかし、彼は未だに満足していなかった。彼が目指していたのは永久機関。フルーゲルシステムはあくまでそれの副産物に過ぎないのだ。この事を知るのは彼の家族–妻と30歳をとうに過ぎた息子、そして彼の数少ない親友であり、協力者であるジョセフのみだ。


そして今日も彼は河原に向かう。


息子とジョセフを引き連れ、エンジンと向き合う。


彼の理想の実現には、しばらくかかりそうだ。


それまで私は、彼についていくとしよう


2078/9/7

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