第23話 どうしても


 1人魔力暴走の恐怖に慄いていると、両親が帰宅したそうなので、出迎えに玄関まで行く。

 両親は私が降りてくるのを見て、笑顔を見せてくれるけど、なんか……疲れてる?


「お父様、お母様、おかえりなさいませ」


「あぁ、可愛いアリー。ただいま」


「ただいまもどりました、アリー」


「あの、お父様もお母様も少しお疲れでは?夕食の前に少し休憩なされてはいかがでしょう? 」


 私がそう提案すると、両親は少し驚いたような顔をした後にっこり微笑んだ。


「あぁ、可愛い天使なアリー!やっぱりあの狸爺になんかくれてやることはできないな! 」


「あなた」


 相変わらず私の名前の前に形容詞を入れなければ呼べない父の口から出た、父らしくない言葉にビックリすると、母が珍しくキツい口調で父を呼ぶ。

 ハッ、とした顔をした父は、それでも『いずれわかる事だ』と何事も無かったかのように、私を抱き上げてから居間に向かう。

 前世の感覚から居間と言ってはみたものの、その部屋は居間という響きに違和感を感じるくらい広々とした豪華な部屋だ。

 前世の私は庶民だったらしく、居間はもっとこじんまりとスペースだと訴えてくる。


 居間(仮)に着いた私たちはソファーに座り、メイドさんが用意してくれた紅茶とお茶菓子に舌鼓を打つ。

 ユズも私の隣にちゃっかりといる。

 あ、そうだ。


「ねぇ、ユズ」


「はい、なんでしょう、アリー様」


「ユズは、私が学園に一緒に着いてきて欲しいって言ったら着いてきてくれるかしら? 」


「それは、命令でしょうか? 」


「いいえ、私はユズに命令できる権限はないから、これは私の我儘なお願いよ。でも、私はユズ、貴方に着いてきて欲しいと思っているわ」


「どうしてもですか? 」


「どうしても……よ」


 両親不在の時も、ユズはずっと傍に居てくれていた。

 そんなユズから離れて新しく学園での新生活を送るのは、やっぱりどうしても不安で。

 ユズを凄く必要としてるみたいで癪に障るけど、赤面しているのを自覚しつつ答える。


「そこまでおっしゃるのなら、仕方ないですね」


「ありがとう、ユズ」


 よし、ユズからの言質はとったし、先程専属メイドのクラリッサにも着いてきて欲しい旨を伝えてある。

 あとは、2人を連れていく許可を父からもらうだけ。

 そう思って両親の方を向くと、父は般若のお面を装着し、母はニコニコと笑っていた。

 思わず隣のユズに目線で助けを求めると、心得た、と頷き。


「アリー様は、是が非でも私のことをご所望のようです、リアム様」


 そうユズが言った瞬間、父の般若のお面から角が生え、母は顔を背けて声なく肩を震わせての大爆笑だ。

 ちょっとユズ、貴方悪化させてるじゃない。

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