第8話 お父様にお願い


「そう言えば、忘れていたけど、ユズ」


「はい、何でしょうアリー様」


 失礼なことにこちらを見もせず、紅茶を飲むユズ。

 まだ紅茶飲むの?


「貴方、表情をもっと出すという約束はどうなったのかしら? 」


「………私にも、不可能はないと思っていた時期がありました……」


 無表情のまま、遠い目で呟くユズ。

 器用なことだ。


「まぁいいわ。これもユズの個性ということにしておいてあげる」


「アリー様の優しさに、感謝感激雨あられでございます」


「やっぱり私のこと舐めてる気がするわ」


 そんなやり取りをしている間に、どうやらドレスのデザインが終わったらしい。


「アリー!私の天使!素晴らしいドレスのデザインが出来たよ! 」


 父の喜びが限界突破したのか、私を高い高いしながらグルグルと回る。

 そして、回り過ぎたのか目を回す、父。

 前世で、アトラクションのコーヒーカップを全力で回しても平然としていた私は、三半規管が強いのだ。

 えっへん。

 そんな様子をクスクスと笑いながら、近づいてきた母に優しく頭を撫でられる。


「でも、本当に素敵なデザインに仕上がったのよ?当日の皆の反応が楽しみだわ」


「こういったデザインのドレスを仕立てるのは初めてですので、腕がなりますわ! 」


 とはマーガレットさん。


「またアリアお嬢様のドレスのデザインをさせていただきたいですわ!是非! 」


 鼻息荒く言う、ビオレッタさん。


 後日、仕上げたドレスの微調整をする為に、再度来るとの挨拶を最後に、仕立て屋さんの皆さんは帰って行った。



「さて、アリー。久々のお父様のお休みだけど、一緒にしたい事はあるかい? 」


「お父様と一緒にご本が読んでみたいの、ダメかし…「ダメじゃないよ」


 私のお願いに、食い気味で答える父。

 よし!

 さっきのデザイン画を書いていた紙、前世の記憶にある紙よりは質が落ちるものの、羊皮紙とかではない植物で出来た紙のようだったし、ペンも万年筆のようなペンだった。

 つまり、本も普及してると考えたのだ。

 異世界転生ものだと、本が高価なもの、という世界もあるようだが、ここでは違うようだ。

 まぁ、公爵家だという我が家に限った事なのかも知れないが、今の私には都合がいい。

 そうして、父と仲良く手を繋ぎながら、書斎に向かうのだった。

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