第4話 お父様登場。


 ソファに座り、どんぐりクッキーを食べる。

 やだ何これ、凄く美味しい。

 どんぐりの香ばしさを感じながら、モグモグと咀嚼する。

 そして、紅茶をフゥフゥしていると、隣でグイッと熱々の紅茶を飲むユズ。

 執事って一緒の席に着いたりしないんじゃ?と思いつつ、それより気になった事を聞く。


「ユズ、熱くないの? 」


「熱くありませんよ。まぁ、飲み終わった後に口の中ベロベロになったりしますけど」


「火傷してるのよ、それ! 」


 ビックリした。

 口の中を犠牲にしてまで熱々を飲みたいのか…。


「今日は、アリーのどんぐり卒業祝いに、アリーの好きなものを作ってもらおうと思うのだけど、何がいいかしら? 」


 まだ引っ張るのね、それ。

 でも、好きな物を食べられるのは素直に嬉しい。


「では、人参のグラッセが食べたいわ! 」


 美味しいよね、人参のグラッセ。


「アリー様、こういう場合は、添え物ではなくメインディシュを答えるものですよ? 」


 コイツ…、無表情だけど分かる。

 絶対バカにしている。

 いいじゃん、美味しいじゃん、人参のグラッセ。


「アリーは人参のグラッセ好きだものねぇ」


 なんだろう、母の視線まで生暖かい。


「では、シェフに伝えるわね…ってあら?リアムが帰ってきたみたいね」


 リアムというのは、私の父親。

 金髪に緑の目の、王子様チックなイケメンだ。


「お迎えにいきましょうか、アリー、ユズリア」


「はい! 」


 慌ててクッキーと紅茶を飲むと、そんなに急がなくてもいいのよ、と笑い混じりに母に言われた。

 だが、アリアこと私は、父親が大好きなので、お迎えには絶対に行きたいのだ。

 階下に降りると、父が両手を広げて待っていたので、助走をつけて飛び込む。


「おかえりなさいませ!お父様! 」


「ただいま、アリー。あぁ、アリーは今日も天使だね! 」


 満面の笑みで受け止めてくれる父に、前世の記憶を思い出した私はちょっと気恥しいのだけど、嬉しさの方が勝る。


「あらあら、アリーは本当にお父様が大好きねぇ」


「はい! 」


「クロード、ハンカチを」


 感動の涙を流す父に、執事らしき男性がハンカチを手渡す。

 残念、名前はセバスチャンじゃなかった。


「私の可愛い天使さん、今日は綺麗などんぐりは採れたかい? 」


 またどんぐり!

 もうツッコミ疲れたわ…。


「リアム様、アリー様はどんぐりからの卒業をしたそうですよ」


「それは盛大にお祝いをしなくてはね! 」


「えぇ!だから今日の夕御飯は人参のグラッセなのよ! 」


 胸を張って答える。

 お祝いに関しては、もう何も言うまい。


「私の天使が可愛すぎるのだが。…まぁそれはそうと、ユズリア」


「はい、リアム様」


「いつから愛称で呼ぶ仲に? 」


 父は、いつの間にか般若のお面を装着していた。


「本日から魂の友になりましたので」


「…そう。友でいる内は闇討ちしないでおこうね」


 父はユズの答えに満足?したのか、闇討ちを諦めてくれた。

 そもそも闇討ちを選択肢に入れないで欲しいのだけど。

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