第2話 愛称のチョイス


 2人でお屋敷に向かう道すがら、一つ提案してみる。


「ねぇ、ユズリア」


「なんでしょう」


「お互い、愛称で呼んでみない? 」


 お嬢様呼びとか、名前に様付けとかは、前世を思い出した私には何となくこそばゆい。

 ユズリアの立場上、様付けは必須だろうし、なら愛称に様付けなら多少マシかも、という苦肉の策だ。


「承知しました、アリ様」


「……なんでそのチョイスなのかしら? 」


「気に入らないなら、尊敬の意味を込めて女王アリ様でもよろしいかと」


「絶対バカにしてるわよね? 」


「いえいえ、滅相もない。では、何か希望がおありですか? 」


「アリーとか? 」


「アリー様ですか。承知致しました」


「それで、私はなんと呼んだらいいかしら? 」


「ユズリンで」


「予想の斜め上来たわ」


 しかも、無表情なので本気かどうか分かり辛い。


「愛らしさを追求した結果です」


「追求する意味はあるのかしら……」


「美少年が愛らしいとか最強でしょう」


「自分が美少年って自覚はあったのね…腹立つけど事実だわ」


「そうでしょうそうでしょう」


 胸を張ってドヤ顔…のつもりかも知れないけど、無表情。

 表情筋、もっと仕事しなさいよ。


「で、ではユズリン、もっと表情豊かにならないの? 」


「ユズリン呼びって痛いですね」


「貴方が呼べって言ったんでしょう!? 」


 折角恥ずかしさを我慢して呼んだのに!


「ここは無難にユズにしておきましょう」


「なんかドッと疲れたわ……」


「お疲れ様です」


「誰のせいだと……」


 半目で睨みつけるが、何処吹く風。


「まぁいいわ。次会う時までには、もっと顔に表情を出しなさいね」


「検討しておきます」


 あ、これ絶対やらないやつだ。

 そう思いながらも、お屋敷に向かう。


 そう言えば。

 異世界転生ものでありがちな、前世の記憶を取り戻したら知恵熱出るとかはなさそう。

 ハイスペックなのかもしれないわね、この身体。

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