夏休みの日記と自由研究
7月26日 晴れ
石松は丸太小屋の治療院にちゃっかり居座っている。
夜、冷蔵庫のプリンを石松が勝手に食べたのでケンカした。
どうもアイツは食い意地が汚い。
ギリバラの秘法を習得させたいがサルには無理だろう。
7月27日 くもりのち晴れ
早朝から山で
なぜか石松も一緒に站椿。
頭を叩かれたので叩き返そうとしたら逃げられた。
追いかけたら山の中で迷子になった。
7月28日 くもり時々雨
昨日の石松との鬼ごっこで足が疲れている。
早朝の站椿はパス。
その代わり師匠から初めてお灸をしてもらう。
「これから
「へえ、そんなに!」
素直に驚いた。
「今は即戦力とか効率化がもてはやされているが大っ嫌いだね、そんな言葉は。ゆっくり時間と手間をかけて熟成させる方が価値が高いのに。ワインだってそうだろ」
「はい」
「そんなありがたい艾を使ってお灸を
「はい」
据えるツボは
ヒザの皿の斜め下、
かの松尾芭蕉も足の疲れ対策にお灸を据えたツボ、足三里。
ベッドで仰向けになりヒザを立てるぼく。
気分はまな板の上の鯉。
いよいよ艾に火が付く。
「あれ、もう火は付いているけど思ったよりは熱くないなあ。これなら全然余裕で……って、ウワッチャア~~~ッ!!!」
たまらずベッドから飛び跳ねた。
取り押さえようとする師匠と石松を振り払った。
勢いは止まらず、裸足で外へ駆け出した。
山道を猛然とダッシュ。
このまま山頂に行ってしまうのでは!?
いやいや、呼吸が続かずぶっ倒れたところを師匠に無事回収してもらった。
約1時間後、シャワーを浴びて落ち着いたぼくは朝食を食べながら師匠の説明に聞き入っていた。
内容は難しかったけどなんとかわかったようなそうでないような。
一言でまとめるとぼくは特殊体質の持ち主らしい。
ツボを刺激すると超人的パワーを発揮する特殊体質。
一般の人は鍼灸治療を受けると体内からはエンドルフィンなど鎮静効果のあるホルモンが放出される。
ところがぼくの場合はどこでどう間違えたのか、戦うためのホルモンであるアドレナリンが産生されいわゆる火事場の馬鹿力が出るそうな。
これとは違うが、ツボを刺激されると気の通り道である経絡が皮膚上にきれいに現れる経絡敏感人という存在は少数だが時々報告されている。
「まあ、全ては叔父さんの推論でしかないがな。とにかくすまなかった。ゴメン。もうケン坊にお灸はしないよ。なにもお灸なんかしなくったて十分強いんだから。ここは慎重に、な」
「イヤだっ!!」
師匠の言葉に反射的に叫んでしまった。
「ぼくだって強くなれるチャンスがやっと来たんだ。これを逃したらまた弱いまんまのぼくに戻ってしまう。それが怖い。そんなのイヤだ。ぼくはどこまで強くなれるか試したい。強くなれるならどっかの怪しい研究所の実験台にだってなってやる!」
なぜか涙を流していた。
「わかった。じゃあ明日からケン坊の体を使って実験だ。とりあえず今日はゆっくり休め」
師匠の声が神様の声に聞こえた。
7月29日 くもり
いつ力が爆発してもいいように実験は庭で行われた。
夏休みの宿題である自由研究はこれで決まりだ。
まず足三里の他にもいろんなツボを試した。手の甲側の親指と人差指の間にある
実験の結果。
多少ツボからずれていても効いた。
ツボにこだわらず身体のどこか一点をランダムに選んでも効いた。
人間の身体は水風船のようなもので、水風船のどこか一点を押せば全体に影響を及ぼすことができる、と師匠の教え。
お灸の他にも火の付いたタバコ、ドライヤーから出る熱風、真夏の太陽によって熱せられた小石など、熱いモノでツボを刺激した。
実験の結果。
熱いモノであれば大抵は効いた。
肌に直接触れても、近づけても効果はあった。
ただ、熱い小石だけは軽く火傷をした。
要注意、というか二度と味わいたくない。
熱い小石は厳禁とする。
実験のまとめ。
ぼくの体のどこか一点をなんらかの方法で熱したら超人の如きパワーとスピードと反射神経を得られることがわかった。
ただし副作用として以下の点あり。
・効果は3分も持たない。
・超人になった後はひどい疲れによりしばらく倒れる羽目に。
・アドレナリンのせいか怒りっぽくなる。
・超人になれるのは1日につき3回が限度。
この現象に名前を付けようと思うが、いい案が浮かばない。
7月30日 くもり
冷凍庫のバニラアイスを石松が盗み食いしたので、またケンカ。
いい加減にしてほしい。
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