第25話 吸血鬼○○○の流浪2

 こんな身体で生まれたくなかった。

 この路地隅に座り込んで物乞いを始めて3日。行き交う人々は私を見て最初巨人だと驚き、一瞥だけして、目を背けて通り過ぎる。全員がそう。大人の男と較べても頭3個分は高いこの身体は目立つから。問題は他にもあるけど。

 「仕事はトロいわ顔・身体は醜女だわ、これじゃあ嫁ぎにも出せねえ」と家を追い出されたのが先月。街まで出てきたものの、人手の売り込みで男に競り勝てるわけもなく、頼るように入った娼館では客が全然つかないとクビになったのが10日前。自分から売りに行った奴隷市場では4回連続で売れ残って出禁になったのが3日前。今、足もとにある売り文句入りの値札はその時書いて貰ったものだ。追い出されるときに「これ持って歩いてれば誰か拾う奴も居るだろう」と渡されたものだ。粘土板はすっかり乾いてカチコチだ。割れないようにしないと。

 はあ。おなか空いたなあ。奴隷市場で食べた奴隷用エサ以来なにも食べてない。同じ路上生活仲間の孤児さんやゴロツキさんたちはスリや盗みで食い扶持を稼いでいる。

座ってても目立つ私は立ったらもはや山だ。さらにもう一つの問題である大きすぎる乳が邪魔で下は見えないし重くて走るのも遅い。おかげで下っ端にすらしてもらえなかった。

 思えばこの人生良いことなんてひとつも無かったな。私には一切合わない普通人間サイズの家屋や道具。来る人会う人全員やるいつものあの目つき。もうどうでもいいか。


 巨人症というのが実在する。成長ホルモンの過剰分泌で起こる症状である。実在例としては紀元前のペリシテ地方に居た2m超えの人間、20世紀フィンランド人のバイノ・ミリリンヌ(251cm)、20世紀アメリカのロバート・ワドロー(274cm)にいたっては歩行するだけでも副木の補助が必要だったり足末端の感覚が無くなっていたりと既に人体が支えきれるサイズでは無くなっており22歳の若さで死んでいる。今、この少女も同じ末路を進んでいるのだが、今は身長の成長と乳房の成長が栄養を奪い合っており、かろうじてバランスが取れていた。だが性徴の成長はいずれ終わる。その時が少女の寿命となるだろう。


 夜になった。もちろん今日も野宿。この辺は夜でも人通りがあって売り込みや物乞いも多い。何も考えず人通りを眺める。そのとき。

 今凄い人が通った。この世のものとは思えない美少年。輝くかのような銀だか白だかの髪。北方の外国人よりも白い肌。金の左目に赤の右目。あんなに美しい人間が存在するのか。あんな人に拾われたら奴隷労働でも毎日嬉しいだろうなあ。でもそんな人に私がグズでノロマだとバレるのも嫌だな…そんな妄想にも嫌気がし始めて、今日はもう寝た。


 朝。川まで水を飲みに行く。二つの隣り合った大河を持つこの国は真水と農産物だけは豊富だ。ついでにその辺の食べられそうな草を食べてみる。やっぱりまずい。

 昨日と同じ路地隅に座る。乾いた粘土板値札も一応立てかけておく。


・・・・・・もうやめよう。


今日何も無かったら。


 朝になったら、街を出よう。

 この国は栄えてる方らしいけど、それでも肉食の獣や野盗強盗はそこらじゅうに出る。特に最近は街の近郊で神隠しが多いらしい。骨一本、服一切れも残さずきれいに消えるそうだ。動物さんにすら要らないって言われたら嫌だな…四つ足でヤギの真似でもしてみようか…


 夜。昼間の草しか食べてないから空腹で眠れない。余計に腹が減るので無駄に動かず、落ち込むだけなので何も考えようとせず、ただ朝が来るのを待つ。いつもそれだけ。


!!!


 昨日の子がまた来た!しかもこっちの方を見てる。私は自分の惨めさを見られたくなくて、服の布を寄せて上げて顔を隠す。どうか、そのまま通り過ぎますように。



父親 「図体ばっかりデカくなりやがった穀潰しがよ…お前なんか誰も要らねえんだよ」

娼館主「一人も客がつかないんじゃあなぁ……」

奴隷商「4回も売れ残る奴初めて見たわ。誰がてめえなんざ欲しがるかよ」



 今まで言われてきたことばが頭に蘇る。また同じセリフが来る……


ショタ「おい女」


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