第3話 無敵の肉体持ちだけどなんか質問ある?

この場所が何処か知りたいか?そう、かの史上最も偉大なファラオ、ウセル・マアト・ラー・セテペン・ラー(ラムセス2世)の墓所である。そう答えるとお前たちはあまりの粗末さにみな驚くだろうな。ウセルにしては少なすぎる副葬品。そもそも狭すぎるスペース。彫刻で彫り込むべき壁画や呪文は描いただけだ。無理も無い。ウセルは不死身だと誰もが信じていたのでウセル自身自分の墓の建設を中止したからだ。しかもウセル死後、ウセルが死ぬのを待っていた勢力たちが一斉に起きあがってきたのでチンタラデカい墓を建ててる余裕は無かったのだ。後任者はよくがんばったと思う。おかげで良い感じの│ねぐらが手に入ったので結果オーライだ。人間用の正式入り口は念入りに潰しておいたし、この墓所自体も念入りに砂に埋めたのでココには俺しか入れない。まあそれでも盗掘野郎はちょくちょく来るんだがな。嘆かわしいことだ。


「うーん・・・ウセルぅ・・・好きぃ・・・」

ウセルの第一棺(3重棺の一番内側)に抱きつく。俺はこれを毎日やってるんダ。文句あんのか殺すぞ。ウセルを挟んで反対側にはネフェルタリの棺をちゃんと持ってきて置いた。俺はできた妻なのでな。


俺はヒトではない。名前はミナという。この「名前」というのは愛する彼氏から貰ったものの中でも最大のものだ。彼からは実に多くを貰い、教わった。

名。読み書き。今のヒト世界の情報。社会の概念。愛。幸せ。喜び。

与えるばかりのその彼がたった一度だけ私に欲したものがあった。

それを始めてから知ったが愛する者の為にする事があるというのは実にすばらしい。プレゼントに何を渡せばいいか悩んだり何をすれば喜ぶのか考える必要すらない!すでに指令は本人から下されているのだ!ただやるだけでよい。やればやるほど喜ばれ、私も嬉しくなり、胸が歓喜と幸福でいっぱいになる。

だから。

今夜も外敵と墓荒らしは殺す。


     ●


盗賊男「ほら歩け」


屈強な盗賊が列の先頭の僕を小突く。

夜。貴族・神官・下級王族の墓が集まるエリアを歩く。

この国では盗掘は立派な産業だ。副葬品の金銀財宝はもちろん、ミイラ自体も高く売れる。金や銅を掘るのもミイラを掘るのも変わらないというわけだ。

そんなラーがファラオだった時代から代々と続く盗掘家業も最近は商売あがったりだそうだ。なんでも盗掘除けの罠が急に強くなったとか、毎夜盗掘狩りが出るとかなんとか。エリアに入ってすぐの所に誰が立てたのか、[この先、侵入者は死ぬ]と書かれた立て札があった。その札自体がこの先にお宝があると知らせていたが札の隣には[わたしは卑しい墓荒らしです]と書いた板を首にかけた死体が地面から生えた杭に刺さっていた。周りにも同じのが何体もある。もちろんその程度で怖じ気づく盗掘一族など居ない。そんなこんなで今僕は罠除け人身御供として隊列の先頭を歩かされている。


盗賊男「オラァ、キビキビ歩けぇ、生きて帰れりゃガキのお前にもちゃあんと分け前が出るぜぇ、だからお前もや」


死んだ


盗賊B「敵襲!!!!」


今回は噂の盗掘狩り対策で盗掘一族と盗賊団の合同隊だ。護衛役の盗賊団員が素早く全周警戒の配置に立つ。円周の内側でその間、盗賊頭は今死んだ団員の死体を調べる。

死体は首から上が全く無かった。剣や斧ではない。見たことも無いきれいな切り口で今もまだ身体がビクビク跳ねるたび血が吹き出ていた。


盗賊B「音も姿も無くどうやったんだ?おいガキ!なんか見たか?!」

ガキ 「ヒッいえ・・・何も・・・」


見えてないのは事実だが元々見る気が無い。


盗賊B「ギャッ」

盗賊C「おカシラッ!また仲間が!」


みるみる人数が減っていく。相手の顔すら捉えられずただオロオロするばかりの盗賊団員と非戦闘員の盗掘一族。そのままひとりまたひとりと消えていく。ついに残りは僕と盗賊カシラだけになった。

カシラ「オイ!このガキは殺す気無ぇんだろ?!こいつは人質だ!俺が町まで連れて行く!!」

そう言って僕を抱えてこの墓所から離れる方向に後ずさる。カシラは数歩でいきなり転んだ。こんな闇夜で後ろ向きに歩くからだ。顔を上げるとカシラは頭が無かった。もう生き残りは僕だけとなったわけだ。


ガキ「あなたが最近噂の盗掘狩りですか?」


何も見えない虚空の闇に向かって。答えるわけ無いと思いつつも訪ねる。


ミナ 「その呼び名はやめろ」


後ろから声がささやいた。

いそいで振り向くとすげえ美少女がいた。銀髪ロン毛。背は130~140cmほどだろうか?、歳は10~14歳といった所だろうか?


ガキ 「あなたはなんなんです?ファラオたちの呪いですか?」


ミナ 「失せろよ・・・まだ墓所に入ってくるならやっぱお前も殺すわ」


ガキ 「いいえ!わたくしはあなたに会うためにやつらに捕まりに行き、ここへ来たのです!」


ミナ 「アァ?」

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