とある会長のことばより 後編
「娘さんの日記には、ほかの名前、なかったと思いますが?」
「あったさ。──外所さん、キミだよ」
ハァ! ? 外所は、ワハハと笑った。
「なるほど、確かに」
「私は疲れはてていた。そんな私に、近づいてきたのは君の方だ、外所さん」
「……だったかな?」
「ほんのイタズラていどで、娘さんの復讐してみません? 君はそういった。
かしてやりましょうよ、とね」
外所は
「ホラ、舞洲涼子の写真だよ」
「それが?」
「イタズラていどのつもりが、私は殺人者になった。なぜなんだろう? 確かに、娘
のうらみは晴らしている。しかし、私は、殺人を
そう考えた、最近」
「フフ、で、結論はでました?」
「私は
外所は頭をふった。
「いってる意味はわかります。他に? なにがわかりました?」
「この写真、舞洲涼子と一緒に写っている男は君だろ?」
外所はなにもいわずにただ笑っている。そして悪びれる様子も見せず、髪をかきあ
げた。
「知ってたんですか? まいったな」
私はひとつ息を吸い、そして吐いた。
「ここから先はすべて私の想像だが、話してもいいかな?」
「どうぞ」
「まず、この3D映写機だが、
は思えない」
「イタズラですから」
「殺人がか?」
「殺しましょうなんてボクはひと言だっていってない」
「確かにね」
「なにがいいたいんです?」
「娘にいってくれたんだよな? 人生は楽しくなければ嘘だと」
「ええ」
「私の憎しみをあおり、殺しをさせるのは楽しいかね? バカげた映写機も、単に君
が使ってみたかっただけなんだろ? 楽しみたかっただけなんだろ?」
外所はなにも答えない、しかし、
「娘の死。一番の原因は鷲尾ではない、舞洲涼子だと教えてくれたのは君だ。でなけ
れば私には知りようもなかった」
「事実ですよ。舞洲に
イジメを繰りかえした」
「ところがそれを教えてくれた君と、舞洲はつきあっている。しかも私に殺させよう
としている。なぜだろう?」
外所はただニコニコと
「じゃまになったのかな、舞洲涼子が。子どもでもできたとか? 最初から彼女の殺
害が目的だったのかな?」
「想像、たくましすぎません?」
私も笑う。
「いやいや、こんなもんじゃないさ。もっともっと想像は広がったよ。中学時代、娘
が生きていたころから舞洲と君はデキてたんじゃないか? だとすれば舞洲と鷲尾を
間接的に
「話としてはおもしろいですね」
「おもしろいだろ? クラス中に
娘を助けてくれたのはいつも君。敵だらけの中、白馬の王子様がつねに無傷でいられ
た理由もこれで説明がつく」
「自作自演か……おそまつですねぇ」
「そうでもないさ。世間知らずのバカな娘はコロリとだまされたんだ。外所さん、娘
はね、君を信頼しきっていた。君という存在があるかぎり生きていられたはずなん
だ。が、とすると、逆もありうる」
「あるでしょうねぇ」
私は初めて外所をにらみつけた。
「娘になにをした?」
──沈黙。外所は計算している。ここでそれをいった方が、おもしろいか
「それを聞いてどうするんです? 親父さん」
「ただ真実を知りたいだけだ」
フフ……外所はまた笑った。
「しかし、そんな妄想をもちながら、なぜ、今までだまってたんです? ふたりも殺
しちゃって」
「だからいったろ、気づいたのは最近だと。それに、あのふたりが憎い気持ちに変わ
りはない」
「だったら告白は、舞洲涼子を
「そうはいかん。舞洲を
うだろ?」
ほう……。外所は感心したかのように目を丸くした。
「親父さん、すごいな! よく、そこまでボクのことがわかりますね!! あなたの
こと、少し見くびっていたみたいだよ」
「そりゃどーも」
「楽しませてくれたお礼に話してあげる」
外所は、話した方がおもしろいと判断したようだ。私はだまってうなずく。
「そう、舞洲とは中学のときからつきあってたよ。でも、あのころアイツ、ガリガリ
でね。しかも生意気ときてる。顔はいいんだけどね。でね、女女したフックラしたの
が欲しくなったわけ」
私は言葉が見つからなかった。中学生が! ?
「ただ抱くのもつまらないから、デブをメス
外所が悪魔に見えた。
「ところがさ、ああ、いっておくけどボクの方からなにかしたわけじゃないよ。あな
たの娘さんから抱きついてきたんだ。大好き!ってね。そうそう、ところがさ、一度
やってみたら、やっぱデブはダメなんだよねー。肌にあわないっての? もう
アキマヘンてわけ」
私はこぶしを握りしめた。
「それでどうした?」
「お前はもういらないや。デブは豚の国にいって暮らしな、そういってやった」
外所はこともなげにいってのけた。
『外所クンが大好き!』と書いた日記を、泣きながら破りすてる娘の姿がよぎった。
「親父さん、あれ、泣いてる? あはは、ショックだったー? ボクもショックだっ
たよ! まさか、死んじゃうとは思わなかったからねー。いい迷惑だったよ」
迷惑? 迷惑だと!? 私は目をあげるとポケットからナイフを抜いた。
「あれれ? ナイフ!? 暴力はいけないな」
私はなにもいわずにナイフを振りまわす。許せん! 許さん!! よし、今
だ!!
──グキ! うわぁ!! 手首の骨を折られ、ナイフを奪われた。
「望みとおりに真実を教えてあげたのに。興奮すると血圧あがるよ、親父さん」
私は首筋をうたれ、腹をけられ、顔を殴られた。鼻が折られ、
「そーだ、親父さん。ひとついってなかったことがあったよ」
私は腹を押さえてうめききながら、彼を見あげた。
「鷲尾がね、ボクに手出ししなかった理由。舞洲に
で、つきあっていたボクに一度、突っかかってきてね……」
ククク、外所は口元を押さえて笑う。
「半殺しのめにあわせてやったよ。本気だしちゃった」
ゾッとするような目をしていた。
「ま、いーや。舞洲のことは自分でなんとかするよ」
外所は何度も何度も私の腹と背中をけった。死ぬほどの苦痛が襲い、悲鳴を上げ
た。おそらく内臓はグシャグシャになってることだろう。
「親父さん、今まで楽しかったよ。でも、もういらないから。娘さんの所へいっちゃ
いな!!」
外所は私のナイフで、私の
胸にあふれ出した──。
♪♪♪♪ その場に不にあいな軽快なメロディが響いた。
あん? 知らない番号だ。スマホを見た外所はでるべきか一瞬、
なにしろ殺人の直後だ。が、彼は出た。それも
「もしもし?」
『死んだ?』
「なんだって?!」
女の声だ。
『死んだの? あの人』
「誰だ?」
『……そこで死んだ男の妻よ』
「なんだって!」
落ち着け! 落ち着け!! ありえない!!
『その人に盗聴機をもたせていたの。そこでの会話は全部録音させてもらったわ。で
もよかった! 外所クンが、ちゃんと夫を殺す意志をしめす言葉をいってくれて。バ
カでしょ? その人。興奮していきなりナイフを振りまわしはじめたときは、どうし
ようかと思ったわ!』
なんだ? なにをいっている、この女……。
『元々ナイフは夫の物だし、正当防衛で逃げられちゃったら、あの人、
だもんねぇ。
でないと外所クン、なかなか本音を見せてくれないから』
キレた!
「なにいってんだアンタ!! コイツのカミさんは気がくるって──」
くるって? 確かにこの女、くるってる。
『そーよ、くるったの。娘が死んでバカみたく泣きすぎたみたい。哀しいとか切ない
とかって感情が欠落しちゃったんだって。お陰さまでサバサバしたもんよ。でもね憎
しみだけは消えなかった。そこへ外所クンが現れたのよ。あの人から話を聞いてピー
ンときたわ!! あの人の仮説の大半は私が考えたことなの。あのうすらボンヤリに
思いつける話じゃないでしょ?』
なるほど! あの親父にしては、できすぎだと思ったが……なるほど!!
「で? お母さんは、どうしたいの?」
女はあはは、と笑った。
『どうしたい? そんなこといってる場合? 私は外所クンの殺人の証拠を握ってる
のよ』
確かに!!
『殺しにいらっしゃいな。親子三人まとめて地獄へおくってよ』
「そうはいくか。警察でも待機させてるんだろ?」
『まさか!! 外所クンを法にゆだねるほど優しくはないのよ、私。こないのならい
いわ、コッチからいくから』
「…………」
『外所クン?』
「……なんだよ!」
『アンタとアンタのまわりのすべてを、
おもしろそうでしょ?』
えー、ただいまご覧いただきましたビデオ、この物語は多少の
フィクションであります。憎しみの連鎖は途切れることはない。憎しみはさらなる憎
しみを産むということが少しでもおわかりいただけたでしょうか? しかしながら、
故意による突然の悪意がおとずれ、ふたたび私の家族をおびやかかし、傷つける。こ
れまでつちかってきたしあわせのすべててが暗転してしまうような突然の転機を、無
理やり誰かに押しつけられるようなことがもし、またあれば、私は全力でその者をた
たきつぶしてやります。必ず、たたき殺してやります! 必ず!!
(とある犯罪被害者の会の会長のことばより抜粋)
(終)
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