義妹と幼なじみとマドンナは僕を守るために生まれかわったのです。

白鷺雨月

第1話神話の残る街

 休日のその日、僕は父の手伝いで今は亡き祖父の家を片付けるのを手伝っていた。

 夏の暑い日だったので、かなり汗だくになった。

読書が趣味だった祖父の家にはかなりの書籍があった。

 本の匂いがたちこめるその部屋で僕は、幼いときに祖父に読んでもらった絵本をみつけた。

 額に流れる汗をタオルでぬぐいながら、その絵本を読んだ。



 昔、昔、その国にはそれはそれは美しい三姉妹の姫さまがいました。

それぞれ、サクラナヒメ、ツバキノヒメ、ウメツヒメといいました。


 国の人々は三姉妹の姫君のもと、平和に暮らしていました。


 ところがある日、その姫たちの美しさを聞きつけた隣の国の黒蛇王くろへびのおうが三姉妹を妻に求めました。

 黒蛇王は恐ろしい王で一日に一人、生け贄の頭を食らうといわれていました。


 三姉妹の姫君の国は、強大な力をもつ黒蛇王の前になす術もありませんでした。


 その時、旅のお武家が三姉妹の姫君の国を訪れました。

 その武家は名を犬塚清彦と名乗りました。


 姫たちが泣いているのをききつけた清彦は、黒蛇王を討つべく、三つの武器を造りました。

 金の刀、銀の槍、銅の弓でした。


 婚儀の日、神官に化けた清彦は黒蛇王にたらふく酒をのませ、泥酔させました。

 酔いつぶれた黒蛇王に三姉妹の姫君はそれぞれの武器で襲います。

 金の刀でその強靭な手足を斬り、銀の槍で黒き腹を貫き、銅の弓でよこしまな瞳を撃ち抜きました。

 だが、絶命の瞬間、黒蛇王は最後の力をふりしぼり、清彦の首に噛みつきました。

 清彦は太刀でその頭を打ち砕きますが、同時に息絶えてしまいました。


 三姉妹の姫君は黒蛇王の遺体と清彦の亡骸を同じところに葬りました。

 清彦は死してなお、黒蛇王を封印したのです。


 三姉妹の美しい姫たちは清彦の亡骸に誓いました。

 必ずや我ら三姉妹は生まれかわり、あなた様の妻になりますと。



 それはこの街に実在する犬塚神社に伝わる物語であった。

 偶然にも僕の名前も犬塚という。

 犬塚明彦というのが僕の名前だ。

 でも、この街の住人で犬塚姓の家はかなりあるので、あまり不思議じゃないんだ。


 ある程度掃除が終わったので、僕は父の高彦とともに帰宅することにした。

 時刻はすでに夕方になろうとしていた。


 帰宅すると僕たちをでむかえてくれたのは、去年父と再婚した陽菜あきなさんだった。

「やあ、ただいま」

 陽菜さんは義理の息子の僕からみてもかなりの美人だった。それにスタイルも抜群だ。

 白いTシャツとデニムのパンツという簡単な服装なのにその美貌は、あふれんばかりだった。

 まさに大人の魅力といえた。

 よくまあ、あの歴史しか興味のない父親と再婚してくれたものだと僕は感謝している。

 物心ついたときから男だけだったこの家が一気に華やかになった。

「おかえりなさい、高彦さん、清彦くん」

 と陽菜さんは言った。

 見とれそうになるほどの笑顔を浮かべる陽菜さんの背後から、一人の少女が顔をだした。

 陽菜さんとよく似た風貌の少女だった。

 ボブカットの明るめの黒髪を揺らしながら、その少女は僕の汗だらけの顔を見た。

 陽菜さんが大人の魅力たっぷりの女性だとしたら、彼女はまだ若々しい青葉であった。

 美人というよりも可愛らしいというのが妥当だろう。ただ、この母親の血を受け継いでいるので確実に美人になるのは明白であった。

「ほら、お兄、早くお風呂に入って、ご飯にしようよ。今日はお兄のすきなカレーなんだから」

 とてつもなく愛らしい笑顔で義妹の桜は言った。




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