第5話:誘導
「皇帝陛下、姚袁燿の言葉は美談のように聞こえますが、問題があります。
外戚排除は皇国の根本法、それは華国の家臣なら知っている事。
絶縁され平民に落とされ養女にしたとはいえ、許される事ではありません。
後宮に入れる事を遠慮するか、入れる前に事情を話すべきです」
また仲徳殿下が救いの手を差し伸べてくださっています。
後で文武百官に指摘されそうな点を事前に父上が話せるようにしてくれます。
本当にお優しい方なのでしょうか。
それとも何か裏があるのでしょうか。
「確かに仲徳の申す通りじゃ。
この事に関して言い訳はあるか、姚袁燿」
「はい、ございます。
微を後宮に入れる心算は全くありませんでした。
しかしながら微が武官登用試験と童試に合格した事で、兵司の掌兵として後宮で働く事となりました。
武官の端くれとして後宮を御守りする役目をいただいたのでございます。
臣の事を実の父と思っていた微は、幼い頃より武官として皇帝陛下に仕える事を夢見ておりました。
その夢がかない手放しに喜んでいる微に辞退しろとは申せませんでした。
それに微は皇帝陛下や皇族の方々の妻妾候補として後宮入りしたわけではございません、単なる武官として守りに入っただけでございます。
伯徳殿下に見初められ、掌兵が妃候補になるなど考えもしていませんでした。
ですがこれは私の油断と不明でございました。
全ては私の不明不徳が原因でございます、妻子には温情をお願い申しあげます」
「……仲徳、これはどうしたものであろうのう」
「これは根本法に係ること、臣下が口出ししていい事ではございません。
温情をかけずに外戚排除を重視して一族処刑されるも、仁道に重きを置き姚孫武と姚袁燿だけの処刑に止め、妻子は平民落ちに止めるも皇帝陛下のお決めになることでございます」
「姚孫武と姚袁燿を同じ罪にするのはおかしいのではないか」
「姚孫武と姚袁燿を同じ罪にするのも国の根本を護るためには正しい事でございますが、同時に姚孫武と姚袁燿の罰に違いをつけるのも、仁道からは正しい事と愚考いたします。
全ては皇帝陛下がどのような治世を望まれるかだと思います」
「ふむ、試しに聞くが、この事件が仲徳の後宮で起きたらどう裁くのじゃ」
ああ、仲徳殿下の返答一つで父上と家族の命運が決まってしまいます。
今までの流れから言えば、私や母妹が処刑される事はないでしょう。
でも父上は断罪されてしまうかもしれません。
いえ、仲徳殿下が皇室の保持と保身を考えられるなら、私や母妹も断罪されるかもしれません。
皇帝陛下の態度が、醜い派閥争いを繰り返す皇族と臣下を処分するための演技という事もあり得るのです。
過去の皇帝陛下の中には、忠節を尽くした有能な家臣を無残に処刑された方が幾人もおられるのです。
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