第27話 強固な意志もエロには負ける

 最近の俺はおかしい。

 学校からの帰り道、俺はここ最近の自分を見つめなおしていた。

 撮りためたアニメは全く消費されることなく残っているし、今週のジャンプはまだ半分しか読めていない。推しのVtuberのアーカイブはたまりにたまって切り抜き動画でなんとか追えている状況だし、先月買ったゲームに至ってはもう数週間プレイできていない。


 足りないのだ。

 圧倒的に。

 自分のために使う時間が。


「それもこれも全部あいつらのせいだ……」


 下ネタ好きで幼馴染の清美と、俺のことを好きでも何でもないくせに告白してきたクラスメイトの玲愛。

 二人の登場によって、俺の日常は大きくかき乱されてしまった。


 ここ数週間は二人の仲を取り持つのに必死で、家に帰ったら何をする元気もなくそのままベッドにダイブ。おまけに休日まで駆り出されるものだから、たまったものではなかった。


 だが、それももう終わりだ。


 先日の一件で清美と玲愛は和解。クラスでも普通に会話をするくらい仲が良くなった。つまり、俺の役目は終わったのだ。


 玲愛の告白をOKするかどうかという、大変悩ましい問題は残っている。けれどそれはさておき、俺の心と時間の余裕は戻ってきた。


 くくく……しばらく堪能できなかった分、今週の週末はたっぷりボッチタイムを楽しませてもらうぜ! 今日は綿密なスケジュールを立てないとな!


 そう心に決め、家の扉を開ける。


「せーちゃーん! 今度の週末、お姉ちゃんとスマブラ大会しない? 負けた方は勝った相手の言うことを何でも聞く罰ゲーム付き!」

「やらない」

「ええええええ! なんでぇえええええ!」

「だってそれ、実質姉さんのお願いを聞く合間にスマブラする企画だろ」


 姉さんはゲームが上手い。

 まあ、何やっても大抵人並み以上にうまくこなすんだけど、それにしたって俺が良く触ってるゲームでも大敗するとは思わなかった。


 この前は風呂上りに抱き着いてくるのを禁止にしようと躍起になって挑戦し続けたが、ついぞ俺が勝つことはなかった。


 いやほんと、あれは地獄のような時間だったよ(遠い目。


「そ、そんなことないって! ほら、なんだったら今度はお姉ちゃん、片手でやるから! なんなら足でやるから! だからお願いぃいい!」


 足でやっても勝てると思われているところに、少しだけプライドが刺激されないわけではなった。

 それにこの前、相談に乗ってもらったお礼もある。 

 付き合ってあげたい気持ちもないではないが……。


「悪い、姉さん。週末は用事があるんだ」


 部屋の扉を閉める。

 俺の意志は固い。長らく一人の時間をお預けされてきたんだ。今週末の土日は、何が何でも、絶対に守り抜いて見せる!

 さあて、至福のおひとり様ライフを満喫するためのスケジュールでも組むとしますか!


 ぶぶっ。

 ポケットの中でスマホが震えた。

 玲愛からだった。


【安里玲愛】

 今週の日曜日、お会いできませんか?


 思わず口角が上がってしまった。

 きっと鏡を見れば、ニヒルな笑みを浮かべた俺の表情が拝めたことだろう。


 悪いな玲愛……。今日の俺は一味違う。

 何人たりとも、俺の時間を奪うことはできないのだ。

 はは! まったく、自分の意志の強さに惚れ惚れするぜ!

 折角誘ってくれた玲愛には申し訳ないが、ここは断りの連絡を入れさせてもらおう。


 悪い来週は予定があ――まで打ち込んだとき、追加でメッセが届いた。


【安里玲愛】

 ちょっとエッチな服を買ったんですけど、どうしても征一さんに見てもらいたくて……。

 

【志茂田征一】

 行く。どこ? 集合?


 おっと、俺としたことが、つい手元が滑って、がっついてるみたいな返信をしてしまったぜ。違うよ? 全然がっついてないよ? 俺、超冷静。今なら七の段だって余裕で言えちゃうもんね。7×2=18。7×7=48。7×9=69。ほらね?


【安里玲愛】

 ありがとうございます! ちょっと恥ずかしいですけど……。見ても、笑わないでくださいね?


 やれやれまったくしょうがない。日曜は予定があったけど、どうしてもって言うなら、予定を開けるのもやぶさかではないさ。

 別にエッチな服に釣られたわけじゃないよ? ほんとだよ?


「せーちゃーん! だったらお姉ちゃんは目をつぶってプレイするからー! だからやろうよー! 遊んでよー!」


 悪いな姉さん。日曜は予定が入っちゃったんだ。一緒に遊ぶのは、また今度な。


 ……あと、さすがに俺、目をつぶってる相手には負けないよね?

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