俺にだけ下ネタを言う幼馴染がギリギリ過ぎて困る!
玄武聡一郎
プロローグ 告白されたと思ったら、いつの間にかAVの話をしていた件
「
と、目を見張るような美少女に告白された三十秒後。
返事をする暇もなく、俺は別の女子に手を引っ張られていた。
目の前でさらさらと揺れる黒髪に向かって、声を投げる。
「お、おい
俺の手を引く彼女の名前は
幼馴染にして、クラスメイト。
品行方正、容姿端麗、眉目秀麗、
およそ清楚と名の付くあらゆる四文字熟語を、アクセサリーみたいに着飾る女子高生。
やや毒舌な気はあるけれど、そんなことは関係なく周りに人が集まる人気者だ。
高校入学二か月目にして、既に水面下でファンクラブが設立されようとしていることからも、その人気の高さがうかがい知れる。
「清美、聞いてんのか⁉ 俺、告白されてたんだけど! 人生で初めて告白されたんだけど! もうちょっとこう、余韻とかに浸らせてくれませんかねえ!」
清美は俺の手を握りしめたままずんずんと進む。
廊下を早歩きで通り抜け、階段を登る。
「あの! 清美さん! 清美さん? 清美さーん! 現場の清美さん、聞こえてますかー! 俺あの子とお話がしたいんですけどー! もうちょっと詳しく話を聞きたかったんですけどー!」
告白してくれた子は、可愛かった。
うちのクラスにこんな子いたっけ? ってくらい可愛かった。
ぶっちゃけタイプ、超タイプ。
だけど、ろくにクラスメイトと話さない俺のどこに惹かれたのかはさっぱり分からん。
接点ゼロで交流皆無。
そんな子に突然告白されたもんだから、今もまだ頭の整理がつかないでいる。
「清美! いい加減俺の話を――」
ちっとも呼びかけに答えてくれない清美の後ろ姿に、俺はふと気付いた。
もしかしてこいつ……俺が告白されたのを見て動揺してるんじゃないか?
俺と清美は長い付き合いだ。
中学校の頃は離れていたとはいえ、母親の腕に抱かれていた頃から互いのことを知っていたのだ。もはや家族同然の間柄と言っていい。
よし、ここはひとつ、俺も想像してみるとしよう。
例えば清美がクラスの男子に告白されているところを目撃したとしてうわぁあああぁあああなんだこれ!? すっげーいやだ! めちゃくちゃ嫌だ!!
嫉妬とかやきもちとかそういう類の感情じゃなくて、もっともっと複雑な……そう、姉さんに彼氏が出来たのを想像した感情に似ている。
まったくお呼びじゃないだろうし、何を言う権利もないんだけど一言モノ申したくなるような……そういうモヤモヤ感。
もし清美も同じ気持ちなのだとしたら――
「
人気のない階段の踊り場。
ようやく俺の手を離し、こちらに振り向いた清美は、真剣な表情で俺の名を呼んだ。
瞬間、確信する。
……ああ、やっぱりそうなんだな、清美。
なんだよ。そうならそうと、ちゃんと言ってくれればいいのにさ。
まったくこんなに強引に連れ出したりして、取り乱したりして……。
可愛いところ、あるじゃないか。
「大切な話があるの。こんな時に言うのも、どうかとは思うのだけれど……」
「構わないさ。俺とお前の仲だろ?」
大丈夫、お前の気持ちは分かってる。
ちゃんと聞くから、安心してくれ。
お前の言葉を茶化さず、逸らさず、真正面から受け止めるよ。
覚悟を決めて、清美を見つめる。
清美は、そんな俺の視線を受けて少し瞳を泳がせて。
口を二、三度ぱくぱくと動かして。
「そう。じゃあ遠慮なく」
やがて意を決した表情で――言った。
「アダルトビデオの話をしましょう」
「なあ。それ、ほんとに俺が告白されたことより大事な話?」
そういえば一つ、清美について言い忘れていたことがある。
俺の幼馴染は下ネタが大好きで――そして俺にだけ、下ネタを喋る。
だからって別に、このタイミングじゃなくても良くないか!?
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