第41話

 石山さんを置いて学校を出た僕たちは駅前に向かっている。


 周囲の視線が僕たちのグループに集まり物凄い注目度だ。それもそのはず高井がイメチェンしてから僕以外全員美少女だ。

 千尋は男だがその顔立ちは美少女のカテゴリに入れてしまってもいいだろう。

 

「このカフェでいい?」


 駅が近くなり数多く店が並ぶ一角にあるカフェの前で立ち止まり相沢さんが尋ねてきた。


 他のみんなからも特に反対は無くそのまま店に入った。

 店に入った瞬間の客と店員の反応が面白かった。美少女三人が突然入店してきたものだから男女問わず目が釘付けになっていた。



 適当に注文を済ませ、広目のソファー席に足りない椅子を持ち寄り腰掛けた。


「今日、みんなにわざわざ外で集まってもらったのは、石山さんのことを話しておきたかったからなの」


 相沢さんが切り出した言葉を聞いた、僕も含めた上原さんや千尋も驚いているようだった。

 高井はいつもと同じ無表情だ。


「相沢さん、それってどういうことなの?」


 僕は最近比較的仲良くしている石山さんのことなので気になり、いち早く相沢さんの話に反応した。


「石山さんはひと言でいうと怪しい。私たちに近付いてきたのも遠山、アンタが目的の可能性もあるということ」


 石山さんの目的が僕?


「どうして僕だって分かるの?」


「私、クラスの友達に色々と聞いてみたんだけど、石山さんは倉島と付き合っているらしいわ」


 え? アイツに今、特定の彼女がいるなんて聞いたことがない。


「ただ、表立って付き合っている訳じゃなくて、その……セフレみたいな関係って聞いた。あくまでも噂だけど」


 セフレ……僕はその言葉を聞いた時、思わず高井に目を向けてしまいそうになった。

 高井はどんな反応をしたのだろうか。彼女を見ないようにしている今は分からない。


「つまり、遠山に最近急に近付いてきたのは何か倉島と関係があるかもしれないってこと?」


 上原さんは心配そうに相沢さんに声を尋ねた。


 その噂が本当であれば僕に恨みを持っていて何か企んでいるというのが一番濃い線だ。


「噂が本当ならね。倉島は未だに遠山のことを恨んでいるような話を周囲に漏らしているみたいだし」


 えぇ……それは僕にとっては迷惑な話だった。


 相沢さんの話を総合すると、倉島が僕のことで石山さんを使って何か企んでいる。

 こんな感じだろうか? 迷惑な話だ。


「佑希も大変な人に目を付けられちゃったね」


 千尋が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


「……千尋って顔綺麗だよな」


「ゆ、佑希⁉︎ な、なに言ってるんだよ! こんな時に」


 こんな状況なのに千尋の顔を見たら思わず本音が出てしまった。


「遠山、アンタ……緊張感なさ過ぎでしょう? 倉島に恨まれて狙われてるかもしれないってことを理解してるんでしょうね? まったく……はぁ……」


 相沢さんは呆れてため息を吐いた。


「とにかく遠山はもちろんだけど、麻里花と柚実と沖田の三人も気を付けてね」


 相沢さんは僕たちに注意を促してくれた。


「特に遠山は脇を引き締めて弱みを握られないように気を付けて。女性と二人でいるとこ写真撮られたり、そういう証拠が残りそうなこととかは特に。分かった?」


 相沢さんに具体的な注意を聞いて僕は先日のことを思い出した。

 中村さんとハグしたことだ。

 

 ……あれって結構ヤバくない?


 じんわりと背中から汗が出てくるのが分かる。


「遠山? なんか顔色悪いけど大丈夫?」


 相沢さんが心配そうに顔を覗き込んできた。

 これは相沢さんに話した方がいいのだろうか? いや……話すべきだろう。


「相沢さん、ちょっと二人で話がしたいんだけど」


「なに? 二人でって何かあったの?」


「まあ……ちょっとありまして」


 相沢さんは怪訝な顔で僕を見つめた。


「そう……じゃあちょっと向こうで話しましょうか」


 そう言って僕と相沢さんは少し離れた席に移動した」



「なんですってぇ!」


 中村さんにハグをしたことの経緯を正直に話すと、鼓膜に響くほどの高音で相沢さんは驚きの声を上げた。


「相沢さん、もう少し静かな声で! 迷惑になっちゃうよ」


 相沢さんが突然大声で叫んだので、周囲の客の注目が僕と彼女に集まった。


「遠山……アンタって……あんなことがありながら警戒心が無さ過ぎでしょう!」


「いや、面目ない……」


 僕は考えが甘かったのかもしれないと反省した。


「でも、そこまで同級生を疑わなくちゃならないっておかしいと思うんだ。常にクラスメイトに警戒しながら学校生活を送ることに慣れてしまうのも普通じゃないよ」


 全ての事柄を疑っていたらキリがない。せっかく人との関わりを大事にしようと思い始めたのに、全てを疑っていたら以前よりも悪い状況になってしまう。。


 最初から中村さんを疑ってかかり、聞く耳を持たなかったら本当に好意を持って僕にアプローチしてきた彼女に対し失礼だろうし傷付くだろう。だからあの時は中村さんに対して誠実に向かい合いたかった。


「まあ、言いたいことは分かるけど……でも、悪意を持った人間がいるかもしれない以上、警戒するのは当たり前でしょう」


 僕も相沢さんのいうことももっともだと思う。


「どのみち、その件は今更だし中村さんの件は何も無いことを祈りましょう。それで遠山はこれから警戒心をもっと持つこと。それから中村さんのことは私が調べてみるわ」


「うん、ありがとう」


 その後三人が待つテーブルに戻り、上原さんと高井と千尋には正直に話し理解してもらった。

 中村さんには特別な好意は持っていないこと念入りに説明した。そうしないと上原さんの目が怖かったからだ。



◇ ◇ ◇



 相沢さんたちとカフェで話し合った翌日、僕は放課後の図書委員の業務でカウンターに立っていた。


「遠山くん、こんにちは。話すのはあの時以来だね」


 図書室に現れた珍しい人物を見た僕は、先日の相沢さんの話を思い出し警戒した。


「珍しいですね中村さん。今日は何か本を借りに来たの?」


 現れた人物は先日、僕に告白してハグを要求してきた中村さんだった。


 図書委員を始めてから中村さんを図書室で見たことがなかった僕は、相沢さんの言葉を思い出し警戒を強めた。


「ううん、今日は遠山くんと大事なお話しをしに来たの」


 中村さんの表情から良い話では無いことを感じ、僕は不安を隠せなかった。

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