第39話
倉島和人視点です
「ちっ! スマホの充電がもう切れそうだ。ゲームをやり過ぎた」
放課後に遊んだ後、仲間と解散し駅前を一人で歩きなが俺は悪態を吐いた。
予備のバッテリーを忘れてしまったのは痛い。このままだとスマホでメッセージが確認できなくなってしまう。一日に数十通のメッセージのやり取りをする俺には致命的だ。
「スマホはバッテリーが保たな過ぎだろ」
イライラしながら悪態をつく。
――ん?
車道を挟み少し離れた反対の歩道側のカラオケボックスから見慣れた連中が出てきた。
「あれは……遠山たちか?」
麻里花と美香、それに沖田と……あの地味な女は何て名前だっけか? いつも本を読んでいて人と話しているのを見たことが無い暗い女だ。
「なんで麻里花と美香までが遠山と遊んでるんだ⁉︎」
遠山のせいで俺は謹慎処分になり、処分が明けて戻って来てみればグループの連中はバラバラになっていた。
お陰で俺は中間カーストの連中と
遠山ごときに麻里花や美香は勿体ない。
遠山の顔を見るとイライラしてくる。最近髪の毛を切ったようだが、地味な男であることには変わりはない。
――お前はその暗い女と地味同士遊んでりゃいいんだよ。
俺は遠山たちにバレないように尾行していた。
――ん? もう帰るのか?
時間的にも家で夕飯を食うような時間だ。遠山たちは駅前に向かい談笑しながら歩いていく。
麻里花は遠山と楽しそうに話しながら歩いている。下駄箱の時も遠山は麻里花のことで激昂して生意気にも俺に歯向かってきた。
あの時のことを思い出すと今でもはらわたが煮え繰り返る思いだ。
イライラする――
なんで麻里花はあんな地味な奴と仲良くしているんだ? 下駄箱での屈辱を思い出すと無性に腹が立つ。
しばらく後を付けていたが遠山たちはここで解散するようだ。
駅前で遠山たちは二手に分かれて解散した。
帰る方向が同じなのか遠山と地味な女が二人で同じ方向に歩いて行った。多分同じ路線で帰るんだろう。
迷わず遠山と地味な女の後をつけた。
俺もここで帰ってもよかったがこの二人に興味が出てそのまま尾行を続けた。
地下鉄のホームで電車を待っている間、俺は柱の影に隠れてコッソリ二人の姿をスマホで撮影した。
――こんな写真じゃ何かに使える訳でもないが一応撮っておくか。
電車が到着し、俺は遠山たちにバレないよう隣の車両に乗り込んだ。
隣の車両から遠山たちの様子を伺ってみると、二人は並んで座っているがお互い本を読みひと言も会話を交わしていないようだ。
――所詮、陰キャ同士、コミュニケーションもロクに取れないんだろう。
目的の駅に到着するのか二人が席を立った。
――ん? 二人は同じ駅なのか?
やはり二人して同じ駅で降りた。俺も慌てて電車を降り尾行を続けた。
改札を抜けそのまま遠山たちは同じ方向へ歩いていった。
――おいおい……お前らどこまで一緒に行くんだ? ご近所さんなのか?
そのまま尾行を続けると一軒の家の前で二人は立ち止まった。
俺は住宅の曲がり角に身を隠し観察を続けた。
女の方が先に家に入った。しばらくすると玄関が開き遠山を招き入れようとしていた。
――マジか⁉︎
俺は写真を撮ろうと咄嗟にスマホを取り出すがロックを外す指紋認証が機能しない。
――バッテリー切れだと⁉︎
こうしている間に二人は家に入ってしまい決定的瞬間を撮り損ねてしまった。
なぜこんなタイミングでバッテリーが切れやがるんだ!
――クソッ!
俺はあまりのタイミングの悪さに腹が立ち、目の前の壁を殴りつけた。
金属製の壁を殴ったせいでガシャンと大きな音を立ててしまい、近くを通り掛かった通行人に不審な目で見られてしまった。
――このままじゃ俺が不審者だ。
俺は仕方なくこの場を逃げるように立ち去った。
◇ ◇ ◇
俺の家は親父が単身赴任中で不在、母親がパートで遅くなることが多い。だから家に誰もいないことが多く、女を連れ込んでセックスするには最適な環境だ。
高校生の俺はそれほど金も無い。飯くらいなら女に奢らせることは出来るがラブホなんかはそうそう利用できない。
今日も同級生の女を家に呼んで行為に励んでいる。二人で果てベッドに横になっていると隣で横になっている女が声を掛けてきた。
「ねえ、和人なにボーッと考えてるの?」
俺の横で裸のまま寝てる女は同じクラスで前からの腐れ縁だ。俺に惚れていて交際をチラつかせてセフレにしていたが、この女もそろそろ飽きてきた。
「ああ、ちょっとな」
遠山が高井という女の家に入っていったということは二人はデキているんだろう。最初は地味同士付き合っているんだと思っていただけだが、次に登校して来た時に高井がイメチェンしていて俺好みの良い女になっていやがった。
あの女は遠山には勿体ない。なんとか俺のモノにしたい。
「遠山と高井の仲をぶっ壊したいからお前が遠山を誘惑しろ」
こいつには遠山に恨みがあるから二人の仲をぶち壊したいからと言っている。
最初はそれだけのつもりだったが今は高井を俺のモノにする為に作戦を変更した。
「誘惑ってどうすればいいのよ?」
「それはお前が考えろ。俺は遠山が高井に振られりゃ満足だ」
これは半分本当で半分嘘だ。遠山に他の女が寄り付き高井と不仲になった後、俺が高井を頂く作戦だ。
だが実際には上手くはいかないだろう。高井と比べると格段落ちる女が何かしたところでせいぜいかき回すくらいだ。俺もそれくらいしか期待してはいない。
「これが上手くいったら今度こそ私と付き合ってくれるんでしょうね? この前も私が上原の噂話を広めた時に、手伝ったら私と付き合うって言ってたじゃない」
遠山と麻里花がお金の受け取りをしてるところを見た、という噂をコイツに流させた。
「ああ、もう少し待っててくれ」
そろそろお前には用は無くってきたがもう少し夢を見させてやろう。
高井という女……胸はそれほどでもないが細身でありながら下半身の肉付きは良く、そそる身体をしている。俺の好みだ。
おっと……高井のことを考えていたら俺の下半身が元気を取り戻し始めてしまった。
「和人、なんか元気になってきたよ」
「ああ、大切なお前のことを考えてたら……な」
まあ、嘘だがこう言っておけばコイツは喜んでケツを振ってくるだろう。
「和人、嬉しい……もう一回しよ?」
――まあ、もう少しコイツで楽しむか。
まだ見ぬ高井の肢体を思い浮かべ俺は興奮を高めていった。
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