第3話
「佑希、一緒にお昼食べよ」
前の席の
千尋は僕の数少ない友達で性格は穏やか、人当たりも良く誰とでも仲良くなれる。自分とは正反対の男子だ。
そして華奢で小柄、目鼻立ちも女の子のようにパッチリとしていて男子の学制服を着てなければショートカットの女子に見えるかもしれない。
そのせいか女子だけでなく男子にも人気がある。
「千尋は今日も弁当持参なんだ。その量で足りるの?」
ダイエット中の女子が使うような小さな弁当箱で、その中身はふた口で無くなる量だった。
「ぼくにはこれで十分だよ。そういう佑希だってパン二個だけ?」
「さっきおにぎりとか食べたし、あんまり食べると午後眠くなるからね」
授業の合間に早弁したし今はこれで十分だ。
「もっと食べないと大きくなれないよ?」
「それ千尋に言われたくないよ」
小柄で少食な千尋に言われると妙な説得力がある。それにしても彼の僕に対しての心遣いが彼女みたいでなんとなくむず痒い。
千尋の女子のような容姿が僕にそう思わせているのだろうか?
――彼女とかいるとこういう感じなのかな?
セフレはいるが恋人はいたことが無い、高井とはそういう恋人らしい事は一切しない。セックスをしていても結局僕は非モテの陰キャなのだ。
「ぼくだってもっと大きくなりたいけど胃が小さいからこれで十分なんだよ」
「本当は女の子なんじゃないの?」
「佑希ヒドいよ。ぼくだって気にしてるのに」
ぷくっと頬を膨らませ拗ねる千尋は――可愛かった。本当に男なのかと疑うレベルである。
「千尋が彼女だったらなぁ……」
「ゆ、佑希! な、なに言ってるんだよ! ぼ、ぼくたち男同士だよ……」
「じ、冗談だよ。僕もその気はないから安心して。至ってノーマルだから」
「もう……本当にやめてよね。心臓に悪いから」
そうはにかむ千尋の顔はほんのり赤味を帯びていた。
「そ、それより今朝、珍しく上原さんと何か話してたね」
千尋は恥ずかしいのか話を無理やり変えてきた。
「ああ、昨日偶然夜道で会ったからじゃないかな? 特に仲が良いってわけでもないしね。あのグループの連中とは仲良くはなれないよ」
そういって上原さんと倉島が集まっているグループに目をやる。すると上原さんと目が合う。彼女は僕に対してその大きな胸の前で小さく手を振ってきた。
「なんか上原さん佑希に手を振ってるみたいだよ」
僕はそれを無視して上原さんのグループから視線を戻す。また倉島に絡まれたら面倒だ。
「佑希、いいの? 無視しちゃって」
「ああ、いいんだよ。あんまり関わり合いたくないし」
「……でも、そうはいかないみたいだよ」
――ん? 千尋がなにを言っているのか一瞬わからなかった。
「ちょっと! せっかく手を振ったのに無視しないでよ」
上原さんがグループの輪から抜けだし僕たちのところにやって来たのだ。
「ああ……ごめん。楽しそうに話してたから邪魔しちゃ悪いと思って」
関わるのが面倒だからとは言えず適当に誤魔化したが、無視したのが返って仇となったようだ。
「それにしても……アンタたち何かカップルみたいよね。遠くからだとイチャついてるように見えたわよ」
僕と千尋を交互に見やり、上原さんは衝撃的な事を言ってくる。
「ええっ⁉︎ ぼくたち男同士だよ。そんな風に見えてたなんて……」
千尋は動揺しているが何となく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……? なぜ君は嬉しそうにモジモジしているの?
背中に寒いものを感じたが見なかった事にしよう。
「沖田くんはその辺の女子より女子力高いからね。遠山も満更じゃ無いでしょ?」
上原さんはサラッと怖い事を言ってくる。
「おいおい、やめてくれよ。いくら千尋が女の子っぽいからって悪い冗談だよ」
ひひ、っといたずらっ子のような笑みを浮かべる上原さん。これは完全に
――ん?
また、どこからか視線を感じる。首を動かさず目だけ動かし視線の主を探す。
どうやら高井と……もう一人、眉間に皺を寄せこちらを睨んでいるのは倉島か。まあ倉島は上原さんが僕のところに来ているのが気に入らないのだろう。上原さんと昨晩、偶然出会った事で接点ができてしまったのが運の尽きだった。
そして高井は……今まで彼女は教室内でも徹底して僕に対して無関心だった。だが今日はどうしたんだろう? 上原さんが絡んできているからか?
高井の事は知っているようでいて実の所よく分からない。どうしたのかと考えていると午後の授業の予鈴が鳴り響く。
「そろそろ昼休みが終わりだから僕はトイレに行ってくるよ」
そう言って上原さんとの会話を強制的に打ち切った。これ以上倉島に睨まれるのも面倒だし。
――高井には今度直接聞いてみよう。
トイレに向かいながら僕はひとり呟いた。
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