第2話

 上原さんに避妊具を買ったところを目撃された翌日、登校して自分の席に座りホームルームが始まるまでの時間に小説を読むのが日課だ。


 僕は普段から休憩時間や昼休みの時間に読書をして過ごしてる。本を読んで静かな時間を過ごすのが好きだからだ。決してぼっちではないが特別仲が良いクラスメイトがいるというわけでもない。


「遠山、おはよう!」


 今日はいつもの朝と違い上原さんが登校するなり僕に声を掛けてきた。なんか朝から彼女のテンションが高い。


「あ、ああ……上原さんおはよう」


 今まで朝の挨拶などした事ないのにどういう風の吹き回しだろうか。


「昨日の夜ぶりだね」


「そうだね。それで何か用?」


 夜ぶりだねと言われても返す言葉は特に無い。用事があるのなら早く済ませて欲しい。


「特に用事があるわけじゃないけど……用が無いと話し掛けちゃダメなの?」


 話をするのが面倒だと思っていたせいで素っ気ない態度が出てしまい、上原さんに悪いと思わせてしまったかもしれない。


「いや、そんな事は無いけど……ごめん」


 ちゃんと対応しようと反省する。


「なんか遠山って冷めてるっていうか、他の男子と比べると大人っぽいよね」


「別に普通だと思うよ。大人しくしてるからそう見えるだけじゃないかな?」


 上位カーストの男子連中は女子に良いとこ見せようと調子に乗ったりしてるから相対的に見て落ち着いて見えるだけだろう。


「そう、そういう所! なーんか余裕があるっていうか達観してるっていうの?」


 上原さんのような人気者と話していると教室で目立つから正直なところ早く解放されたかった。


「麻里花、そんな陰キャと話してても面白くないだろ? 行こうぜ」


 人の話に突然割り込み僕の悪口を平然と言い放った男子生徒は同じクラスメイトの倉島和人くらしまかずひとだ。

 イケメンの彼は上原と同じ上位カーストだ。かなりモテるらしく何人も付き合ってる女子がいると噂だ。


「和人、そういう言い方は失礼だよ」


 上原さんはなぜか僕に気を遣ってくれているが、注意された倉島は憮然としていた。


「……遠山、悪かったな」


 倉島が上原さんに惚れているのは明らかでクラスのほぼ全員が知っている事実で、倉島から告白して一度振られているが諦めていないという話だ。

 だから上原さんの言葉には従って渋々謝ってきたが、僕に対して悪いとは一ミリも思って無いだろう。


「いや、別にいいよ。気にしてないから」


 まあ、いきなり本人を目の前にディスってくる奴とは僕としても関わり合いたくない人種なので、嫌われてようが問題ないので本当に気にしていない。


「麻里花行くぞ」


 倉島はなぜか上原さんの彼氏面をしている。カッコつけて気を引こうとしてるのが見え見えだが当の上原さんは困り顔だ。


「遠山ゴメンね。今度面白い本教えてね」


 そう言って彼らは上位カーストの集団に合流していった。ああいった仲良し集団も面倒くさそうだな。一人の方が気楽だ。


 ――面白い本ね……上原さんは小説とか興味無さそうだけど。


 僕が知らないだけで本好きなのかもしれない。

 

 そんな事を考えているとどこからか視線を感じた。周囲を見回すと高井柚実たかいゆみと目が合い視線の主が彼女だと気付いた。

 彼女は僕から目を逸らし先ほどまで読んでいた本に再び視線を戻した。


 先ほどまでの上原さんとのやりとりを高井に見られていても、彼女が嫉妬したりするような事はないだろう。なぜならクラスメイトでもありセックスをする間柄でもあるが恋人同士というわけでは無いからだ。

 高井とはセックスをするだけの関係、いわゆるセフレというやつだ。惚れた腫れたというような関係では無い。


 放課後、図書室で委員の業務をしていた僕が毎回のように本の返却に来た高井と何気なく本について話すようになった。ある日、本貸すからと彼女の家に誘われた。


『セックスする?』


 訪れた高井の部屋で彼女が囁いた言葉。断る理由もないし僕と彼女は肌を重ねた。

 こんな簡単に誘ってくるのだからさぞかしビッチなのかと思いきや彼女は処女だった。僕も童貞だったし初めて同士でしばらくは試行錯誤しながらセックスした。

 僕も普通の性欲旺盛な健全な男子高校生。しばらくは性欲を満たす為に高井の身体に溺れた。彼女といえば性欲を満たす為のセックスではなく、足りない何かを埋めるように僕に甘えた。


 そんな高井とは教室内で話すことは無い。

 だから僕と高井がセックスフレンドだという事はクラスのみんなは知らない。

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