第3話Part.5~アンの疑問~

「ブレイド殿、これからの3ワー、よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく。3ワーだけだがしっかり眠れたか?」

「おかげさまでしっかり睡眠を取れました!」

「それはよかった」


 アンはこれから共に行う見張りをよろしくお願いしますと挨拶してきた。俺は彼女にしっかりと睡眠は取れたかと尋ねる。一応睡眠は取れたようで元気そうな様子でしっかりと眠れたと返答してきた。


「ところでお聞きしたいことがあるのですが」

「なんだ?」


 見張りを始めようかという時、アンは俺に聞きたいことがあると言ってくる。納得したように見えたがやはり俺とミリアが抱き合っていたことに関して納得がいっていなかったのだろうか。俺はそんなことを考えながら返事をする。すると


「あの娘とのお子さんはどうするつもりでありますか?」

「……はい?お子さん?いや、何のことだ?」


 アンはいきなり子どもをどうするのかと尋ねてきた。アンでも冗談を言うのかなどと思いながら彼女の表情を見るのだが至って真剣な顔で俺を見ている。魔物と戦っている時よりも真剣に見えるほどでとても冗談で言っているとは思えない。

 俺はまず彼女の発言の意図を知るために何を言っているのか説明してほしいと返す。するとアンの表情に少々怒りの色が混ざり始めてくる。彼女が怒った理由が全く分からず、俺は困惑するばかり


「とぼけるんですか!あの娘と口づけされたではありませんか!」

「く、口……づけ……?」

「そうでありますよ。口づけをすると子どもができるでしょう?!」


 困惑した表情を見せる俺にとぼけてはぐらかそうとしていると取ったアンは強い口調で俺を詰る。そしてその内容は口づけをしたから子どもができるので、あの少女との子どもをどうするつもりなのかということだった。

 至って真剣で少女やその子どもについて真面目に考えているアンだが、そもそもが完全に間違っていた。


「アン……口づけでは子どもはできない」

「え?」

「口づけでは子どもはできないんだ、アン」

「えええええええええ!」


 あの至って真面目な様子から分かり切っていたことだったのだが、アンは本気で口づけをするという行為で子どもができると信じていたらしい。おそらく親御さんか誰かが答えに窮してそう言ったのだろう。


「い、いや……でも父と母は口づけをして……アレ?」

「アン、あの娘を孕ませた挙句、無責任に放るなんてことはしないから安心してくれ」

「穴があったら入りたいであります……」


 アンは自分がとんでもない思い違いをしていたということが分かって、顔を真っ赤に染め上げて右手で顔を覆って俯いて「穴があったら入りたい」としばらく呪文のように呟き続けていた。

 しかしまあ教わるか目撃するか実践するでもしない限り、子作りの方法を知る機会など無いだろう。俺も旅に出る前にあのシューインから「子作りの方法知ってっか?」と話を聞くまで知らなかった。


「申し訳ありませんでした。知らなかったとはいえブレイド殿にとんだ無礼を……」

「気にしていないから気に病まなくていい。アンはアンなりにあの娘のことを想ったのは分かる」

「お気遣い感謝であります……」


 山彦か何かのようにひたすら「穴があったら入りたい」と呟いていたアンはやっと自意識を取り戻したようで俺に謝罪してくる。彼女は彼女なりに少女を想ったのが分かるので俺は特に気にしてはいないことを伝えると、アンはもう一度謝った。


「ところでそれをご存じということはブレイド殿は本当の子作りをご存じでありますか?」

「ファッ!?ななななんでそんなことを聞く?」

「気になりまして」


 アンは少し沈んだ顔になっていたが、何かピンと閃いたかのように表情が一変して嘘と知っているなら本当の方法を知っているのではないかと尋ねてくる。たしかに知っているがそんなことを彼女と話すつもりはなく、どうして聞くのかと返すとアンは好奇心からだと普段の表情で答えた。


「アン、君の父君と母君のように共に愛し合える男を見つけ、その人に聞けばいい」

「自分はブレイド殿のことを好いていますが……」

「いや、好きにも色々あるだろう」

「そうでありますか……?」


 俺は少し偉ぶってアンの両親のように愛し合える男を見つけてその人に聞けと言う。彼女と会ってからこれが初めての師匠っぽい言葉であるのが少々妙な気はするが。

 だがアンの方はというと、俺のことは好きだと言う。いや、好きにも色々あるのだアン。どうも彼女は親愛と恋愛の境界が曖昧な状態であるようだ。


「気になるということは子どもが欲しいのか?」

「そうですね。自分もいつまで生きられるか分からないでありますから、その前にという気持ちはあります」

「そう、か」


 俺はアンの言葉にハッとさせられる。この時世では何で命を落とすか分からないのだ。俺が生まれた町だってそうだった。強力な魔物に襲われて壊滅的被害を負い両親も失い、俺は孤児院で育った。そしてそこで読んだ勇者の冒険譚に憧れて勇者を志したのだ。

 それ以来俺は魔王の討伐だけを志していたが、冒険者たちも結構早くに結婚し、子を成してしばらくその街に身を落ち着かせたりする理由が今ようやく分かった。


「いつか現れるだろう。そういった相手が」

「そうでありますかね。でももしその方もブレイド殿であったなら、私に子作り教えてくださいますか?」

「その時は俺も腹を括る」


 俺はいつか巡り合う相手を待つよう言う。するとアンはそれでも俺だったらしっかり教えてほしいと満面の笑顔で尋ねてきた。相変わらず純粋でキラキラとした瞳を向けるアン。そこまで言われてはその言葉に曖昧な返事を返すわけにはいかなかった。


「お、お疲れ様です」

「もう時間か。そういえば起きられたんだな」

「え?えぇ……野営の時は寝相は悪いですけど寝ぼけたりはしないんです」

「そ、そうなのか……。いや、それならありがたいな。寝相は悪いままみたいだが」


 ミリアはしっかりと交代の時間に戻ってきた。彼女の寝起きが相当悪かったことを忘れていたが、彼女の姿を見てそれを思い出し、それと同時にちゃんと起きてきたことに驚いた。

 だがミリアは野営中はちゃんと起きられるらしい。寝相は悪いままのようだが。妙な話ではあるが逆よりはありがたい。


「それじゃあ俺も休ませてもらう。あとは頼んだ」

「はい、おやすみなさい」

「ごゆっくり!」


 俺は2人と挨拶をしてルーゲに入る。ルーゲでは少女が変わらずに寝息を立てている。幸いにもミリアの凄まじい寝相には巻き込まれなかったようだ。

 幼い娘とはいえ女性と寝所を共にするのは、昨日ミリアと共にしたとはいえ色々問題な気はするが、ルーゲは1つしかないので仕方がない。

 俺は左端に寝る少女に対して右端ギリギリの場所で寝転がる。眠気はミリアやアンとの会話で紛れていたが、いざ寝所に入ればすぐに襲ってくる。俺はあっという間に眠りに落ちていった。

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